事務所に所属する、ということを考える

所属契約とマネジメント事務所のイメージ

皆さんはプロダクション(事務所)の所属契約を目指したことはありますか?
「専属契約」「所属」という響きに、どのような印象を覚えるでしょうか? 認められて嬉しい?実態が分からず不安?
感じ方は、皆さんのこれまでの道のりや現在状況、目指す目的地によっても変わってくるでしょう。

弊社では「専属マネジメント」と「専属エージェント」という二つの所属契約スタイルがありますが、その「違い」はまたの機会に譲るとして…
ここではマネジメント事務所としての立場から、「芸能分野における所属契約」そのものについて考えてみたいと思います。

本記事を読むべき人
  • アーティスト、タレント、役者など、芸能活動をしている(していきたい)人
  • 事務所に所属するとはどういうことか曖昧な人

所属契約とは

タレントは事務所に属し、事務所はタレントが芸能活動を進めるためにサポートをする。
事務所は交渉、税務、法務などを担当し、タレントたちが芸能活動に専念できるようにする。
そのための基本ルールや権利義務を決めておく契約です。

トラブルを避けるための書面ですが、お互いを縛るものになり得るので、この契約自体がトラブルになる事例もよく聞きますね。
近年では大物芸能人も、事務所を離脱するニュースをよく見るようになりました。時代とともに所属契約の在り方も変わるからこそ、その本質を理解してから締結したいものです。

安易に所属契約を提示しない方針

私はレコード会社在籍時代から考えると、この20年間で、数十人のアーティストや作家と契約を交わして来ました。
しかし年間何百人という若き才能と面会する私としては、決して多い数では無いと思っています。
なぜなら「滅多なことでは契約を切り出さない」、それをマイルールとしているからです。
「一応契約して押さえておけば良いのに・・・」と言われることもあります。

なぜ安易に所属契約をしないか?
相手も人間ですから、契約してしまえば事務所としても大きな責任を持つことになる。
クライアントに対する仕事上のクオリティー担保はもちろん、プライベートで起こした不祥事なども面倒見なければならないこともあります。

NG
  1. 同じ価値観やビジョンを共有できていない
  2. 人間性に問題があるかも
  3. そもそも活動が成立しないほど技能が未熟な状態

こういう人を所属させても、リスクばかり抱え込んでメリットは何もない。
だから見極めには慎重なのです。

契約は「契約が必要になった時にする」。当たり前のことです。
世の中には、まず囲うことを目的としてイタズラに契約を持ちかける事務所が多くあります。
持ちかけられた方も、「認められた」と勘違いし、喜んでサインするのです。
なぜ契約をするのか、よく考えましょう。
自分でも売れる根拠を見出せていないのに、切り出された所属契約に乗っかったら、必ず失望することになると思います。

事務所に所属するってどういうこと?

ところでもう一つ、多くの皆さんが誤解をしていることがあります。
それは「事務所に入ると、自動的に仕事を振ってくれる」と考えている、ということ。「だから所属したい」と言います。
しかし、私から言わせれば、「そんな馬鹿な?」です。その考えは、前提から大きく間違っていると断言いたします。

そう考えている人は、行動目的が「契約してもらえる」になりがちです。
そのため大小のオーディションを繰り返し受け、まさに就職活動さながらです。
全くもって、アーティスティックでもクリエイティブでもありませんね。
そういう人に、私は「向いていないよ」と烙印を押させていただいています。

所属しようがしなかろうが、「売れる根拠が無い人」 には仕事はありません!

逆から考えると…

所属しようがしなかろうが、「売れる根拠が有る人」には仕事はあります!

当たり前のことです。
ということは、「契約に至るような人には、そもそも初めから仕事のオファーがある」ということです。
「この子には仕事がある、即ち売上に直結する」→だから「ウチと契約しないか?」となるのです。
ハッキリいって、そのレベルが契約条件のスタート地点なのです。

正しいマネジメント契約の提示スタンス

「マネジメント」という言葉を直訳してみましょう。「管理」です。
そう、事務所は所属者を管理し、方針に従って仕事を捌き、仕事をやり易くするためにケアし、ギャラの交渉・清算など面倒くさい事務処理を代行する。
そして一番の目的は、「所属者の価値を上げて、更に案件を生みやすくするために育てる」ということです。
皆さんの価値向上のために案件を提示する権利はあっても、仕事を与える義務はありません。
お仕事の斡旋業者ではないということです。

技術的に、人柄的に、人から必要とされる人になる、そしてそれを証明する。
すると、自ずと世間から起用されます。声がかかります。
事務所の出番は、そこから。

我が社はマネジメント事務所ですが、「自ら仕事を生み出す意思のない人は要らない」と初めから伝えています。
だって契約する理由がないですから。

「君は仕事の依頼が沢山ありすぎて困っている、ならばウチが面倒みるよ」
究極的に言えば、これが正しいマネジメント契約の提示スタンスなのです。

自分の名前で仕事が勝手に舞い込みすぎて困るくらいに、先ずは自らの価値を高めることに注力してください。
事務所はもちろん、マネジメントすることになったら案件を探し、仕事を作り、売り込むよう努力します。
つまるところ、相互協力に基づくことが前提なのです。お互いがお互いのやるべきことを履行する。

まだバリューの低い駆け出しの人が、「仕事は事務所がとってくるもの」と勝手に定義づけて思い込んではなりません。

マネージャーの仕事は、仕事を断るのが仕事?

かつて私がBEINGに所属し、DAY TRACKというレーベルを立ち上げたばかりの頃のことです。
アングラから新人アーティストを集め、何人か契約候補者のプレゼンを某幹部の方にしていた時、こう問われました。

「水谷、マネージャーの仕事ってなんだと思う?」
私は、「アーティストをケアし、仕事を取ってくることです、かね?」と返しました。
すると彼は驚くべき回答をしました。
「違うよ、マネージャーの仕事は、仕事を断るのが仕事なんだよ」

・・・その言葉は、私もその後、数年間腑に落ちなかったくらい衝撃でした。

しかし今になると解ります。
会社として取り扱うべきアーティストは、「マネージャーを付けねばならないくらい、既に仕事が手一杯な状態の人」なのです。
逆を言えば、仕事を断らなければならない状態に「無い」アーティストには、マネージャーを付ける理由も、所属させる理由も無いということ。
その幹部の気分を端的に解釈すれば、「今回水谷の連れてきたアーティストは売れる根拠がないから興味ないよ」、そういうことだったのだろうと思います。

所属とはどういう事なのか、そこを履き違えている人が多い。
だから、結局「事務所は何もしてくれない」などと失望して触れ回る例が多くあるのでしょう。
よく聞く話ですよね?
それは、当の本人の前提認識が誤っていることが一番大きな原因です。
一方事務所側も、「マネジメントとは何か?」の本質を解っていない素人さんが多いから、安易に契約を持ち出してしまうダメ事務所が多いのです。
所属希望者の皆さん!事務所の皆さん!そろそろオママゴトは止めて、マネジメントの本質に立ち返りませんか?

1000を目指せる所属者

アーティスト声優ナレータータレントなど各種エンタテイナーたち。ジャンルは様々あれど、本質は同じです。
チャンスをつかみたいと思い、事務所所属を目指すなら、先に(同時に)「自分がマネジメントされてしかるべき自分になる」こと。
事務所がどんなに優秀でも、ゼロに100かけてもゼロ。また、1に100かけても100。
であれば、10に100をかけて「1000を目指せる所属者」に注力したいのが、事務所の本懐です。

今回のまとめ
  • 所属しようがしなかろうが、「売れる根拠が無い人」には仕事はない
  • 所属しようがしなかろうが、「売れる根拠が有る人」には仕事はある
  • 仕事が発生する人をマネジメントするのがマネジメント事務所
  • まずは、自分がマネジメントされてしかるべき自分になる

ちなみに、ミュージックバンカーではオーディションを通じて、ゼロでも1でも志望者に向き合う方針ではあります。
ただ実際に所属契約をするのは、あなたの価値がゼロや1から、もう少しアップした後に提示したい。
そういう方であっても、会いに来てくれれば「所属足る根拠」を創っていくための方法は一緒に考えます。