ポイントは「共感」、これ一択!
良い歌詞って、何を基準に決めるのでしょうか?
ポイントはシンプル。「共感を生む歌詞」、これに尽きます。
共感できない歌詞、意味の分からない歌詞を、少なくとも「良い歌詞」とは言えませんよね。
確かに「良い歌詞」でなくても、売れている楽曲はあります。
ただその曲は、サウンドなり、話題性なり、歌詞以外の要素で売れているわけで、「歌詞が良いから売れている」わけではありません。
でも今から作詞に取り組む人であれば、誰もができるだけ「良い歌詞」を目指すはず。
ここでは、歌詞で売れるなら意識したい「共感」というポイントについて、言及していきたいと思います。
- 歌詞を書きたいけど、何から学べば良いかわからない人
- 自分の歌詞が共感を得られるものになっているかチェック項目を知りたい人
情景の浮かぶ歌詞
歌詞には「共感」が必要、といっても、聴き手によって感じ方は多種多様です。
恋愛、社会問題、人生観。何が題材であっても、男性女性、年代によっても受け止め方や共感ポイントは異なるでしょう。
よって歌詞の良し悪しは、自分の音楽を誰に聴いてもらいたいか、即ちターゲットに大きく依ります。ターゲットをイメージするところからがスタートです。
歌詞のテーマ選びのポイント
ここでは、POPS=商業音楽に的を絞って言及します。
商業音楽なので、あなたの歌詞は、多数の人(Major)に共感されるテーマである必要がある。
世の中に恋愛の歌詞が多数を占めているのは何故でしょうか?
それは、人々の関心が高いファクターだから。
つまるところ、テーマ選びは「みんなが共通して感じるもの」、これが前提なのです。
「恋愛ばかりでつまらない」という人もいるでしょうが、恋愛だって十人十色のパターンがあり、表現次第で無数のバリエーションがあるはずです。
まずは斜に構えず、恋愛に関する曲から着手してみましょう。
他には、大切な仲間、家族への感謝、出会いや別れ、などがテーマになりやすい。
一方、混沌とした10代の心境をストレートにぶちまけるような、徹底的に直情的な歌詞も共感を得やすいですね。
主人公は歌い手ではなく、聴き手
歌詞を書かせると、よく日記やエッセイのようになってしまう人がいます。
これは自分の体験を文字に起こしているに過ぎない、とても押し付けがましい印象になります。
リスナーは、「あなたことを知りたくて」あなたの歌詞に接するわけではありません。
あなたの歌詞を通じて、自分の体験に投影し、沸きあがる感情に自分が浸りたいのです。
それを歌で導いてあげるのが、アーティストの使命とも言えます。
例えばあなたが女性に支持されたければ、「もしかしたら私はいい女なのかもしれない」「私は今のままの私でいいのね」と思わせる歌詞を書いてみましょう。
彼女達を勇気付けることができてこそ、その歌詞がこの世に誕生した意味が出てきます。
そのためには彼女達より、歌詞の主人公が上に立ってはいけません。むしろ主人公はどこか弱い人物像の方に好感が持てます。
なぜなら私たちは人生において、いつも悩み苦しみ、不安を抱えているからです。
そんなネガティブな感情を等身大に共有し、一緒になって頑張ったり、励ましてくれたり、慰めてくれたりする歌詞が求められているのです。
映画づくりと作詞は同じ
映画を考えてみましょう。主人公はカッコ悪かったり、弱かったりする一面が必ず描写されています。
観客はそんな主人公を応援し、共感し、それを克服しようとする姿に感動するのです。
物語も終盤に差し掛かれば、主人公は観客の感情移入を一身に受けて最後のきめ台詞を放つ。我々は、その言葉をしばらく忘れないでしょう。
歌詞についても同じで、キーとなるワード、テーマを抽象化するようなワードは、サビの部分に込められていれば良い。
そして、そのサビを引き立たせるために、ABメロの部分は具体的な情景描写に徹するべきです。
「夜中の1時にスマホの着信を待つシーン」「手が触れ合いそうになって高鳴りが止まらないシーン」「些細な事でケンカしても朝になれば元どおりのシーン」…
あなたはABメロでリスナーの感情移入を一身に受け、サビで最後のキメ台詞「ずっと一緒に居たいよ」を放ちます。すると大きな共感が生まれるのです。
歌詞から、あたかも映画のワンシーンを連想させるように導きましょう。
歌詞がリスナーの頭の中で映像に変換されること、これが共感を生む条件になります。
そのために映画の字幕を研究することをお勧めします。また人生経験をいっぱいしてください。
ネガティブな感情も、歌詞の肥やしとなるならウェルカムです。
五感を刺激する歌詞
歌詞で要求されるものの一つは表現力です。共感・好感を生む歌詞を目指したいものです。そのためにはメッセージを押し付けるのではなく、歌詞の持つ世界観をリスナーの心に自生させるよう努めるべきです。聴き手の脳裏に情景を浮かび上がらせるためのテクニックを学び、表現力を養いましょう。
五感を刺激すると5W1Hが見えてくる
テクニックの第一歩、具体的には歌詞の中に「五感を刺激するキーワードを入れる」ということです。
目、鼻、口、耳、肌、手、足、頭、それぞれを刺激する表現を意識することで、【5W1H】(いつ、どこで、誰が、なぜ、何を、どうした)が見えてきます。
すると歌詞で表現されている情景が脳裏に浮かび、聴き手はメッセージを自分の価値観や体験に照らし出すことが可能になるのです。
ポイントは【5W1H】を歌詞の中で「説明」するのではなく、五感を刺激するキーワードによって、生成するということ。
瑛人「香水」の分析
瑛人/香水(Music Video & lyrics)
例えば、1番Aメロ3行目。
「2人で海に行っては、たくさん写真撮ったね」
「行く」(→足)、「撮ったね」(→手)を刺激しているわけですが、センテンスに付随している「2人」「海」「写真」を合わせて考えると、この一文だけで「Who」「Where」「What」「How」は見えてくる。
その描写は2行前の、「3年くらい会っていないのにどうしたの?(という問いかけ)」(→耳)を刺激している一文にかかり、「When」が見えてくる。
思い出と現在の心境のはざまで揺れる、切ない想いをつづった歌詞なんだろうな、と推察できますよね。
2番Aメロに関しても、「今更君にあってさ 僕は何を言ったらいい?」と同じく問いかけられていますし、「口先でしか言えないよ」と自答しています。
さらに「どうしたの?」と問いかけられ、「タバコなんかくわえだして」と耳や口を刺激するキーワードがてんこ盛りです。
続いて、2番Bメロ。
「でも見てよ」「涙の一つもでなくてさ」(→目)を刺激しています。
そもそもこの詞は、過去の彼女を思い出し、未練や強がりといった複雑な感情を語ったものですが、その中心となるキーテーマに「ドルチェアンドガッバーナの香水」(→鼻)が据えられています。
あいみょん「マリーゴールド」の分析
あいみょん/マリーゴールド(Music Video & lyrics)
この歌詞は、まずサビの冒頭「麦わら帽子」(→頭)に注目です。
夏ですよね。「When」が見えてきます。
その後にも「青い夏」と直接的に表現されていますが、「青い」は目を刺激しています。
全体通して俯瞰してみると、「目」の登場率は非常に多い。
- 真面目に見つめた(1A)
- 目の前でずっと輝いている(1B)
- 泣きそうな目で見つめる君を(サビ)
- 絶望は見えない(2A)
- 目の奥にずっと移るシルエット(2B)
もう一つ、「肌」の登場率も多い。
- 風の強さ(1A)
- 抱きしめて 抱きしめて(サビ)
- 柔らかな肌を寄せ合い(2B)
- 冷たい空気(2B)
目や肌は「Who」を連想させることが多そうですね。
その他、拾ってみましょう。
- 「離さない」「離れないで」「繋がっていたい」(→手)
- 「名前つけようかなんて話して」「アイラブユーの言葉」「キスして」(→口)
- 「かみしめて歩く」(→足)
また、タイトルでもあり、キーテーマでもある「マリーゴールド」。
花は目と鼻を刺激します。
かぐや姫「神田川」の分析
かぐや姫/神田川(Music Video & lyrics)
この曲、知っていますか?
日本を代表するフォークソングです。
フォークはオールドミュージックですが、全般的に共感要素が多く盛り込まれており、とても勉強になります。
神田川の中から五感を刺激するキーワードを挙げ、その表現が何を意味するかを深堀してみましょう。
- 「忘れたかしら」、「すてたのかしら」、「一緒に出ようね」、「悲しいかい」
相手や自分に対する問い掛けです。これらは口、または耳を刺激します。 - 「石鹸」
香り立つようなキーワード。これは鼻を刺激します。 - 「赤い手拭い」「マフラー」
「寒い」「冬」と説明しなくても、季節感が思い浮かびます。これは目と肌を刺激します。 - 「待たされた」
待っていた、ではなく「待たされた」というところに疲労感が窺えます。足を刺激します。 - 「カタカタ」
擬音です。寒くて震えている様子が耳を刺激します。 - 「冷たいねって 言ったのよ」
肌と口を刺激するコラボレーションです。 - 「24色のクレパス」
色とりどりの賑やかなカラーをイメージさせます。目を刺激します。 - 「うまく描いてねって 言ったのに」
手と口を刺激するコラボレーションです。 - 「指先見つめ」
手と目を刺激するコラボレーションです。 - 「若かったあの頃 何も恐くなかった ただ貴男のやさしさが 恐かった」
情景が浮かび、しこたま感情移入したところでキメセリフ。全てはここに結びつきます。頭を刺激します。
いかがでしょうか?
何も押し付けがましい点はなく、ただ情景が浮かびます。思えば私も似たような状況があったかも、と思い出探索に浸れます。
それは【5W1H】が説明ではなく、表現によって脳裏に映像化されるからなのです。
メッセージは押し付けてはなりません。主体は決してアーティスト側ではない。
歌詞の持つ世界観、聴き手はそれを自分の体験に重ね合わせます。あくまでリスナーの解釈に委ねましょう。それが共感を生むことに繋がるのです。
その他の共感生成ポイント
上記に取り上げた作品から、五感を刺激するワードのチェック以外にも、ポイントとなる点をいくつか挙げておきましょう。
数字で描写する
数字は話の根拠を強くします。
例えば、今回例に出した「香水」「マリーゴールド」「神田川」、すべてに「2人」というワードが入っていますね。三作品の世界観は2人称であることが確定するわけです。
他にも、香水には「3年くらい会ってない」、神田川には「24色のクレパス」と数字が入っています。
仮に「3年くらい会ってない」を「ずっと会ってない」、「24色のクレパス」を「色とりどりのクレパス」と置き換えてしまうと、途端に弱く感じるでしょう。
キーテーマの設定
本ワード、すでに何度か前出していますが、非常に重要です。
これも三作品ともにあります。タイトルそのまま、「香水」「マリーゴールド」「神田川」。
その歌詞の扉を開ける鍵、象徴となるアイコンです。
サビで出てくること、タイトルして使われることが多い。
歌詞全体を、一つの象徴的なワードに凝縮してテーマ化できると、響きやすいはずです。
【おまけ】サビの歌詞は「あ」母音で始まる
なんとなく昔から話題になることですが、サビの頭は「あ」母音で始まるワードでスタートすると、なぜか売れやすい。
最近でいえば、YOASOBI「群青」、Ado「うっせぇわ」など、「あ~」とか「はぁ~」とかで始まりますものね(笑)
米津玄師「Lemon」、ヨルシカ「藍二乗」、King Gnu「白日」、家入レオ「未完成」、ゆず「SEIMEI」、RADWIMPS「愛にできることはまだあるかい」、Official髭男dism「Cry Baby」、あいみょん「愛を知るまでは」など、ふと思いつく曲だけでも、結構ありそうです。チェックしてみましょう。
さらに、そのサビ頭のワードが、即ちタイトルであると、なおGOOD。
往年のヒット曲の中では、ZARD「負けないで」、ウルフルズ「バンザイ」、いきものがかり「ありがとう」、Superfly「愛をこめて花束を」など。
たぶん、母音の中で「あ」は一番開放される響きになるので、勢いがつくのではないでしょうか。
歌詞をつくる時、サビの第1フレーズで迷ったら、「あ」母音の言葉から探してみても良いかもしれませんね。
- 良い歌詞の基準はいかに共感を集められるか
- 共感を得るためには、情景を浮かばせ、五感を刺激する
- 数字を入れ、キーテーマを設定し、サビ頭は「あ」から入ることも検討余地あり
曲は人から貰うが、歌詞は自分で書く、という人は多いと思います。しかし作詞という一つの技術に対して、ノウハウを何も持たず取り組んでも、なかなか良い歌詞は書けないものです。素人にもできることなら、作詞家という職業は成り立たないですよね?
言葉で人を惹きつける技、法則、いろいろ研究してみましょう。
ちなみに共感を生む歌詞の技術は、共感を生むキャッチコピーの技術と似ています。文字量制限のある中で、いかに人の心を掴む言葉を組み立てられるか。コピーライターを目指す人用の参考書が、歌詞を書く人にとっても役立つと思います。