展開と感情をブンブン振り回す

売れるシナリオに共通する2大法則のイメージ図

かつてミュージックバンカーは、小劇団や朗読ユニットが5団体あり、学校公演(芸術鑑賞会)やリーディングライブの開催、ラジオドラマなど、演劇に関する活動を今よりも盛んに行っていました。所属声優たちにも、舞台活動を推奨していた時代もありました。

現在、我が社でそういった動きが縮小しているということは、まあ上手くいかなかったわけですね(笑)その敗因のひとつは、原則としてシナリオ(脚本)を演者本人たちに書かせていた、というケースが多かったからです。次から次へと、見事に「?」なシナリオが上がってきたものです。

本人たちはあくまで演者であり、裏方のシナリオライティングまで担当することはストレスに感じていた子も多かったでしょう。当時の私としては、「それもまた勉強、脚本の善し悪しが理解できなくて、根本的に演技などできるはずもない」と思っていたのです。
そして、それは今でも思っています(笑)

さて、当時の私が、弊社劇団員や声優志望者たちに指導していた「売れるシナリオの法則」を公開します。

ズバリ、売れる脚本にはコツと法則がある。そのうち重要な、2つのポイントをお話しましょう。
それを押さえずに筆を進めていても、行き当たりばったりの響かぬ作品となります。脚本が良くなければ、役者がどんなに優れていてもヒットすることはありません。
一方、役者側も売れるシナリオの法則を知らなければ、まともな役づくりはできません。

「売れる公演」と「売れない公演」には、明確な違いがあるのです。

本記事を読むべき人
  • シナリオライターや演出家を目指す方々。
  • 映画俳優や舞台役者として活動する、かけだしの方々。

売れるシナリオは展開で振り回す【法則①】

N字展開のイメージ

とにかく観客は、上行ったり、下行ったりしたいんです。 アクションでも、恋愛でも、時代劇でも、ホラーでも、ハラハラしたり、ほっとしたり、ピンチになったり、ギリギリのところでクリアしたり。

※本項では、映画を想定した事例を挙げていきます。

N字折れ線グラフ型のストーリー展開

シナリオの全体を「N字」の折れ線グラフのようにイメージしてください。

  1. まず序盤で「ハラハラ、ドキドキ、ワクワク」を演出する。掴みです。

  2. そして中盤、いや終盤に至るまで、深い谷底に入っていきます。ピーンチ!です。
  3. 最後には、窮地や弱さを克服し、主人公の成長を感じながら最高潮のクライマックスへ。Ⅴ字回復でキモチイイ!です。

上げて、落として、また上げる。これがストーリーブランディングの原則的な型。ヒットするどんな映画や公演も、ほぼこのパターンに沿っているはずです。

あらすじ例(創作脚本)

銃の腕はピカ一、日々カーチェイスを繰り広げるような戦闘能力高い捜査官。彼の弱点は人を信用しないことだった。同僚にも変人扱いされ、完全に一匹狼。ある日、かつて自分が逮捕した犯罪組織のボスが脱獄。 自分の家族を人質に取られ、更には自分も捉えられ、自らの不甲斐なさに苦悩する。すると普段自分を変人扱いしていた仲間達が救いに来て、共に犯罪組織を壊滅。 死地を切り抜けた孤高の捜査官は、生まれて初めて友情の温かみを知る。

ありがちですかね?良いんです、ありがちで。
前提として、多くの人が求めるように作るのですから、一旦それで間違ってはない。
ありふれた作品以前の問題として、誰も起伏のない単調な映画なんて見たくありませんから。
そして、この「多くの人」のニーズを意識できるかどうかが、「売れる」かどうかの分かれ目となる。マーケット理論の原則です。

N字折れ線グラフを感じられる映画の事例を拾ってみましょうか。
本稿が昔のブログのリライトであることを勘案して、作品例が古いこと、ご容赦ください(笑)

  • アクションでは、「スパイダーマン」「バットマン」「24」
  • 恋愛では、「ゴースト」「タイタニック」「ラブアクチュアリ」
  • SF/ファンタジーでは、「スターウォーズ」「ネバーエンディングストーリー」「トイストーリー」
  • 社会ドラマでは、「ゴッドファーザー」「ロッキー」
  • コメディーでは、「天使にラブソングを」「ミセスダウト」「最強のふたり」

…など。

皆さまも、これまで印象に残っている映画やドラマを重ねて検証してみてください。
良作は必ず、「ワクワク」→「トラブル」→「成長」といった縦揺れ要素で構成されているはずです。

N字折れ線グラフの重要ポイント

さて、N字折れ線グラフにおける、一番重要なポイントはどこでしょうか?
実際は物語のほとんどを占めている、「ピーンチ」の部分が良作の肝になるわけです。
つまり、いかに谷を創れるか

谷を創るためには、主人公は「弱点」「闇」「未完成な部分」がなくてはなりません。

これを丁寧に描写してあげることが、谷作りのコツ。
我々は、日々苦悩の連続の中で生きているので、終始完璧な登場人物には感情移入できないものです。

ちなみに、谷の部分は下降しっぱなしではなく、3つ下げては1つ上げ、を繰り返して徐々に下降していくと、観る人を掴んで離さないでしょう。

ここで、「夜明け前が一番暗い」というプチ法則を授けます。

要は、クライマックス前で、7つくらい落としてみてください。
か~ら~の~、そこからの逆転劇、これが感動を呼ぶのです。
そしてエンディング。
「あーよかったぁ!」「あースッとした!」「なるほど、そういうことだったのか!」などに落とし込むのが基本形です。

まあ、必ずしもハッピーエンドでなくても良いですが、起承転結の「結」は重要です。
「最後落として終わらせたい」「謎を残したい」という方は、ラストシーンで「ホッとした」と見せかけつつ…最後の最後に、持ってきて締めくくりましょう。

たまにⅤ字回復が無いまま、谷で唐突にオチを創ろうとする脚本がありますが、これはNG。「腑に落ちない」という印象で、釈然としないまま終わります。
作り手としては「不条理」をテーマにしたかったのでしょうが、観客にとって伝わらずに終わってしまうパターン。作品としてのモヤモヤを残したかった事と、「金返せ」のモヤモヤを産んでしまったことは、決してイコールではない。

N字折れ線グラフ型の骨組みを、キチンと構築しましょう。

売れるシナリオは感情で振り回す【法則②】

ステージに釘付けになる観客

もうひとつ、欠かせない要素が、一つの演目の中に「喜怒哀楽」がすべて盛り込まれているということ。
登場人物に自分を重ねて、感情がドンドン揺さぶられる。これを一言で言うと、「感動する」です。感動なき作品に、コンテンツとしての価値はありません。

戦争をテーマにした劇だから90分「怒哀」だけなのか?コメディーだから90分「喜楽」だけなのか?
それでは展開というものが無い、すると物語として認識すらできないでしょう。

※本項では、舞台を想定した事例を挙げていきます。

喜怒哀楽、全部ちょうだい

たとえ、話の軸がミステリーであれ、コメディーであれ、サスペンスであれ、ホラーであれ、ラブロマンスであれ、時代劇であれ、ヒューマンドラマであれ。
その感情の構成比率に優先順位やボリュームの差異はあれ、シナリオや演出に「喜怒哀楽」が始終盛り込まれているかをチェックしてください。

楽→ 哀→ 怒→ 楽→ 喜→ 楽→ 怒→ 楽→ 喜(×2)→ 哀(×3) →怒→ 楽→ 喜(MAX)

…と、次から次へとスピーディーに、ガンガン感情を振り回す舞台こそ「売れる舞台」です。
こういった横揺れ要素で振り回してくれない舞台は、「眠たい舞台」「疲れちゃう舞台」です。

時に「大きな(怒)の中に小さな(楽)」や「大きな(哀)の中に小さな(喜)」が同居したりします。すると立体感のある印象を呼び起こすことができるでしょう。

例えば、一触即発の流れから主人公と悪人とのシリアスな切り合いのシーンで、唐突にボケとツッコミを挟み込む一幕はあり得ます。
手に汗握るカッコイイ殺陣の中に、一瞬ふと笑いが入ることで気が抜けてフックとなり、かといって大きな流れとしては本筋から逸れることは無く、また力強く展開していきます。

演出面との連携も重要

ここでは、もちろんシナリオ展開としての「喜怒哀楽」表現と共に、当然、音や光りなどの演出としての要素も併せて考える必要があるでしょう。

ハッとして、シュンと静まり、パッと広がり、シュッとまとまる・・・

また演出という側面から考えてもと、面白い舞台は、色々な要素が詰まっているステージなのではないでしょうか。時代劇なのにミュージカルが入ったり、シリアスなシーンからダンスが入ったり、意外で唐突な演出も能動的に欲しいところ。

中途半端なものだと、斜に構えたような観客からは冷ややかな印象を持たれそうですが、キチンと創り込まれている舞台であれば、スッと受け入れられるはずです。

今回のまとめ
  • 「ワクワク」→「トラブル」→「成長」といった縦揺れ要素のあるストーリー展開(法則①)
  • 作風問わず「喜怒哀楽(四感情)すべての表現」といった横揺れ要素の盛り込み(法則②)

シナリオは設計図。それを作るとき、または発注するときは、まず下記を定めたい。

  • この脚本は何がテーマで何を伝えたいのか?(主題)
  • 全体としてどんな作風に味付けしていきたいのか?(クール?ダーク?コミカル?)

その上で、プロットをチェック。
私としては、この段階で法則①と②のイメージが膨らまないとアウトだと思います。

その次に人物表、柱書、台詞などを詰めていきたい。
またプロデューサーとしては、法則①や②の邪魔になるキャストは選びたくないですね。