在宅ナレーションの収録でも採用されるコツ

宅録ナレーターになるための指南書のイメージ

当社ミュージックバンカーは、ナレーター事務所として、1500件以上のナレーション案件を収録してきました。 当社オーディションの中でも、ナレーターオーディションは特に人気で、沢山の志望者からエントリーいただいております。老若男女問わず、ナレーションをお仕事にしていきたい人は増加傾向にあります。

そして近年増えているのが、宅録環境を整えているナレーター志望者たちです。コロナ時代を経て、在宅でナレーションを録る発想が一般的になってきたのかもしれません。 確かに宅録は、自分のペースで作業できることなど、利点はありますよね。

しかし自宅でのナレーション収録は一見簡単そうに見えますが、実際には様々な障壁が存在します。例えば、適切な機器の選択が難しかったり、音声の品質向上における正誤が判らないなど、数々の課題に直面することが多い。
本来、レコーディングという知識と技術は、専門分野です。 仕事して成り立つ録音/整音、というのは、一般の人がにわかに遂行できる代物ではない。毎日録音スタジオに入っているような人たちでも、「耳が出来てくる」まで何年も積み上げが必要になるのが普通です。

確かにナレーション録音で求められるスキルは、それほど高度である必要はありません。しかし、それはレコーディング・エンジニアというプロの領域から見た視点。
専門職でない皆さんが、「宅録、私はできているけど」と思っているとしたら、「そう思い込んでいるだけ」と一旦謙虚になった方が良いかもしれません。 音の世界は、追求しようと思えば、果てしなく奥が深い分野なのです。

それでもナレーション録りをプロのエンジニアに依頼せず、宅録にこだわりますか?

ミュージックバンカー代表

わかりました。では自宅でナレーション収録を行うための基礎知識、収録環境の整え方、音を良くするポイントなどについて、必要最低限に絞って指南いたしましょう。

ただし、前提があります。
本稿は網羅的ではありますが、宅録ナレータになるための入り口を紹介しているにすぎません。在宅ナレーションを極めようとするなら、文章ですべてが理解できるほど甘くはないことはご留意ください。

本記事を読むべき人
  • 宅録ナレーターを始めるために環境を整備したい人
  • 在宅ナレーションのクオリティーを上げたい人

宅録ナレーターの音源提出ポイント

在宅ナレーションの音を比較

当社では、所属者はもちろん、一般レッスン生(ライト声優スクール在籍者)にもナレーション案件を振る機会はあるのですが、ここ数年で宅録提出していただく方が急増した印象があります。
しかし先日、社内に下記のようなアナウンスをさせていただきました。

宅録ナレーター、提出音源の音質について。 ボイス案件のお仕事に関して、宅録でレコーディングした音源を提出していただいている皆様へ。 先日、代表の水谷が、5名10個の「過去のナレーション提出サンプル」をチェックする機会がありました。 結論から言うと、「全員、このままでは通らない」と思います。

辛辣ですね(笑)

音源の目指すゴール、善し悪しのモノサシ

クライアントに提出するためのクオリティーとして、担保しなければならないポイントは2つ。

  1. ナレーションのクオリティー
  2. 音質のクオリティー

今回の議題では、②にフォーカスしてお話しします。

行き当たりばったりに宅録したナレーションを、当たればラッキーと思って提出する。 これでは通りません。 かつてナレーション案件が通った経験をお持ちの方は、「たまたまクライアント側のジャッジ・レベルが低かった」と認識すべきです。
一件通って、「この調子でいくぞ!」と意気込んでいたのに、その後さっぱり通らなくなって、「あれ?」となった経験、心当たりあるでしょう。 かつて採用されたナレーション案件は、たまたま奇跡的に通っただけ、なのかも。

重要なポイント

下記のモノサシを、「自分の耳と脳」で確立していること。

音質や音量の何が「最適解」で、提出にあたって目指す音の「着地点」はどこか?

ゴールが明確だからこそ、スタートである録音時点から、正しい収録準備が可能となるのです。

  • 録るたびに音質が違うことに気付いているか?
  • 気付いているなら、整音補正を施して仕上げているか?
  • ノイズに対して敏感に向き合っているか?
  • 提出する音源は小さすぎないか?歪んでいないか?

参考音源と徹底比較をする

自分の「ナレーション提出音源の品質」が最適かどうかを判断するためには、ベンチマークとなる参考音源との比較が非常に重要です。それらを探し、参考にして音声の品質を比較することがマストです。

まず、インターネット上で公開されている一流ナレーターのボイスサンプルを探します。 ダウンロードしても良いですし、ブラウザ上からも視聴できるでしょう。 その際、自分のナレーションと同じようなテーマやジャンルのものを選んでください。
次に、これらのボイスサンプルと自分の音源を比較し、音質や表現力などの点で差異を見つけることが目的です。

比較する際には

以下のようなポイントを、比較対象として注目します。

音声の明瞭さやクリアさ

一流ナレーターの音源と比較して、自分の音源が不明瞭であったり、ノイズが多かったりする場合は、間違いなく改善が必要。

音量や音のバランス

自分の音源の音量が小さすぎたり、逆に大きすぎたり、音のバランスが悪かったりする場合は、書き出し前の工程で調整をしなければなりません。 場合によっては、録り直しが必要でしょう。


このようにして、ベンチマークとなるボイスサンプルと自分の音源とを徹底比較することで、自分のナレーションの改善点や課題を明確にすることができます。 少なくとも、「自分が良くないと思っている部分」が1%でも残っているような音源を提出しないこと。 一発でネガティブなレッテルを、問答無用に貼られるだけです。それを後々引き剥がすことは困難だから。

ただし、比較によって課題点が浮き彫りになっても、やはり改善するためには一定の知識や技術が必要となります。 ポイントは後述しますが、くれぐれもそれだけで理解したつもりにはならず、専門家にご相談ください。

宅録スタジオのセットアップと環境整備

理想の宅録ナレーター環境

自宅での録音環境を整えることは、高品質なナレーション作品を生み出すために欠かせません。宅録スタジオのセットアップと環境整備は、適切な音響処理や機材の選定を含む重要なステップです。

反響音と吸音環境

在宅ナレーション収録において、最も悩まされる問題の一つが反響音です。反響音は部屋の壁や床、天井などの硬い表面から音が跳ね返り、音質を劣化させる原因となります。特に小さな部屋や無駄に大きな部屋では、反響音が顕著になる傾向があります。このため、反響音が収録に与える弊害は大きく、音の響きや明瞭さを損ないます。

あらゆる要因の中で

最も神経をとがらせなければならないのが、この「反響音」と心得て。

このような反響音の弊害を解消するためには、適切な吸音環境を整えることが重要です。吸音環境を整えることで、反響音を減少させ、クリアで自然な音声を収録することが可能となります。 本来は防音室を導入して吸音材で埋め尽くすのがベスト。でも、コストは100万円以上かかると思います。

代替案としては、以下のようなアイディアが効果的です。

まず、部屋に吸音材を配置することで反響音を吸収します。吸音材としては、厚みのあるカーテンや布製のパネル、吸音スポンジなどがあります。一般的なひとり部屋の大きさなら、これらを壁や天井に取り付けることで、反響音を減少させることが期待できるでしょう。
押入れを改造して収録ブースに変える猛者もいますが、実は理にかなっているとも言えます。 不格好ではありますが、マイクと自分を取り囲むように、掛け布団や厚手の毛布を持ちいる方法も有効。まさに宅録ならではですね(笑)

なお、リフレクションフィルターを導入する方法もありますが、ただそれだけ購入したからといって、いまいち効果は薄いと思います。

部屋の中に大きな物体を配置することで反響音を抑えることもできます。家具や本棚などの大きな物体は、音の反射を抑制し、部屋全体の音響を改善します。いわゆる「音を吸う」といわれる現象です。

さらに、マイクと録音機材を配置する位置にも注意が必要。反響音の影響を最小限に抑えるためには、マイクを声の正面に向け、反響音の強い壁や角に近づけないようにしましょう。 何とか工夫を凝らして、できるだけ良好な録音環境を整えることは、宅録ナレータの第一歩です。

ノイズに気を配る

在宅ナレーション収録において、ノイズに気を配ることも重要。ノイズは、周囲の環境音や外部からの干渉によって生じる不要な音のことを指し、ナレーションの品質を劣化させる原因となります。特に、交通騒音、エアコンや空気清浄機、人の声などの外部からのノイズは、収録された音声に混入する可能性が高い。そのため、ノイズ削減の対策が求められます。

まず、適切なマイクの選択が重要です。 収録環境が良ければ、コンデンサーマイクを用いるべき。ただし、状況によってはダイナミックマイクの方が適切な場合があります。

次に、周囲の環境を静かにするための対策が重要です。部屋の窓を閉め、外部の騒音源を遮断することで、ノイズの影響を軽減することができます。また、騒音の少ない時間帯を選んで収録を行うことも効果的。 宅録におけるノイズの問題を効果的に解決し、高品質なナレーションを目指しましょう。

代表的なノイズの種類について簡潔に解説し、発生の原因と対策を挙げます。

種類 原因 対策
「サー」というノイズ
  • ゲイン設定が過剰
  • マイクケーブルや機器の接続不良
  • ゲイン設定を適切なレベルに下げる
  • ケーブルや機器の接続を確認する
「ブーン」というノイズ
  • 電源ノイズ
  • グランドループ
  • 電源ケーブルを別のコンセントに挿す
  • ノイズフィルターを使用する
「ガサガサ」というノイズ
  • マイクの風切り音
  • 衣服の擦れ音やマイクスタンドの振動
  • ポップガードを使用する
  • マイクの位置や角度を調整する
「ジー」というノイズ
  • 高周波ノイズ
  • 照明器具や電子機器からのノイズ
  • 高周波ノイズフィルターを使用する
  • ノイズ源から離れる
「ビー」というノイズ
  • 電磁波
  • 携帯電話や無線LANからのノイズ
  • 電磁波カットシートを使用する
  • 携帯電話や無線LANを遠ざける
「プチプチ」というノイズ
  • デジタルノイズ
  • データ転送エラー
  • オーディオインターフェイスの設定を見直す
  • パソコンの負荷を軽減する

宅録機材を揃えよう

皆さまが、宅録ナレーターを目指している段階のレベルだとしたら、機材については「身の丈に合った安価なもの」で充分です。 なぜなら、機材より、反響音の問題やノイズ対策の方が、はるかに重要なファクターだから。

なので、本項ではごくシンプルな構成を紹介します。下記4つを揃えるところから始めましょう。

①マイク

マイクには「コンデンサーマイク」と「ダイナミックマイク」があります。

コンデンサーマイクとダイナミックマイクのイメージ

コンデンサーマイクの特徴
メリット 感度が高く、クリアで高音質な音声が収録できる
デメリット ノイズを拾いやすい、取り扱いに注意が必要
ダイナミックマイクの特徴
メリット 環境音の影響を受けづらい、頑丈
デメリット 感度が低く、低音域の音を拾いやすいため、音質がコンデンサーマイクに比べて劣る

宅録環境において、反響音やノイズの問題が少なければコンデンサーマイク、そうでなければダイナミックマイクを選択して下さい。 (ただしダイナミックマイクの場合、より高度な録音技術と補正技術が必要)

参考までに予算に関して。 コンデンサーマイクは3万円程度、ダイナミックマイクは1万円程度の代物で十分だと思います。

初心者向けには

「RODE/NT1-A」(コンデンサーマイク)、「SHURE/SM58」(ダイナミックマイク)をお勧めしておきます。

②オーディオインターフェース

マイクをPCに繋ぐための機器です。 PCに音声を取り込み、DAWを介して録音ができます。

オーディオインターフェースのイメージ

PCにUSB経由で直刺しできるマイクを使用している方がいますが、ノイズの影響を受けやすい、音質が劣るというデメリットがあります。高音質なUSBマイクも存在しますが、予算としては「汎用的なマイク&オーディオインターフェース」と変わらないか、それより高価になる可能性もあります。

在宅ナレーション録音においては、絶対マスト、とまでは言い切れませんが、2万円くらいで買える安いオーディオインタフェースは購入しておいても損はないでしょう。

初心者向けには

「STEINBERG/ UR22C」をお勧めしておきます。

③PC/DAW環境

宅録ナレーターとしての用途に特化する場合、そこまでハイスペックPCは必要ありません。雑感ですが10万円台で買えるミドルレンジのモデルで十分でしょう。 またDAW(オーディオを取り扱うソフト)も、高価なものは必要ありません。無料のソフトでも基本的なことはできます。

DAWのイメージ

無料DAW例

Cakewalkby Band Lab(Win)、Garage Band(MAC)など

ただ、できればノイズリダクションができるようなプラグイン(特定の機能を付け足すために用いられる補助的なソフトウェア)は導入したい。それ以外にも、あれこれ拡張性が欲しくなる。 なので本腰入れている人は、後々のことを考えて、下記定番のDAWを早々にを検討しても良いでしょう。

定番DAW例

Cubase(Win/Mac)、Logic Pro(MAC)など

いずれをチョイスしても、取扱い方法などは、YouTubeでシッカリ勉強できるはずです。

④モニター環境

上記1~3までを取り揃えていても、モニターはPCにイヤホンをつないで、という方は多いですね。でも、それでは不十分です。 在宅ナレーション納品前のエラーに気付くためには、複数のモニター環境で再生チェックする必要があります。 例えば、スピーカー、ラジカセ、イヤホン、ヘッドフォン。どれで聴いても違和感なく聴こえるかどうか。プロほど慎重になるチェック項目なのに、在宅ナレーターの皆さんが、それ以上の注意を払わないとは、何ごとか?

モニタースピーカーのイメージ

「音の低域の感じ」はスピーカーで判りやすく、「音のバランス」はラジカセなど比較的チープなモニターの方が判りやすい。イヤホンやヘッドフォンは、最終確認で使用しましょう。

その他

各種機器をつなぐ、ケーブルや息ノイズを防ぐポップガード、などもお忘れなく。
一気に揃える必要はありません。 繋いでみて足りなければ、また買う。その方が、結果的に不要なものを買わなくて済みます。

宅録の音声編集と整音技術の基本

宅録ナレーターの音声編集機材

ここでは、ノイズ除去コンプレッサーイコライザーの3つに絞って言及します。

ノイズ除去

この工程は宅録ナレーターの皆さんにとって、マストになります。 ノイズ処理がマストだからPC/DAW環境の構築が必要、と言っても過言ではありません。

ノイズの種類については前述していますが、ナレーターの口から発せられるリップノイズや、息の処理が甘い人に見られるブレスノイズもあります。そのすべてをリダクション(削除・軽減)しなければならないと思ってください。

ちなみに、音楽制作の現場でもボーカルトラックのノイズは丹念に処理します。 しかしナレーションに関しては、その三倍気を使います。なぜなら、音声がむき出しだから。物理的にサウンド(他の音)でごまかせない、という理由です。

例えば、ノイズの中で代表的なものがホワイトノイズ。「サー」といった音であり、こういったノイズはノイズリダクションに関するプラグイン(拡張ソフト)を導入して除去するのが一般的。
例えば、当社では、X-noiseを使うことが多いです。またAdobe Auditionを持っている方であれば、ノイズリダクションエフェクトが優秀。たくさんありますので、調べてみてください。

もう一つ、超重要なノイズ除去の作業があります。

録った音の波形をできるだけ大きくしてみてください。すると音と音の間の無音部分にも、細かく小さなゴミのような波形が存在することに気付くことでしょう。 これはスピーカを大音量にしないと、耳で気付くことは難しい。でも必ず存在するものです。

この無音部分を、「愚直に」「丹念に」「手動で」カットするという作業です。

MEMO

上記紹介したようなプラグイン・エフェクトで、軽いノイズはある程度取れていますが、録音時の布擦れ音、余計な息の音、口を開けたときに発生する「ニチャッ」といったノイズは除去しきれないです。
各ノイズの特性に応じたリダクション・ソフトはありますが、プラグインを何重にもかければ音はおかしくなります。

私もこれまで色々試してみましたが、ナレーション音源の無音部分に関しては、下記工程を取るのが「結局のところ早く正確」だ、という結論に至っています。

  1. プラグインで、一旦ざっとノイズリダクション
  2. さらに問答無用に、手動でカット(再生チェックがてらスピーディーに)

コンプレッサー処理

コンプレッサーは、ナレーション収録や整音時に不可欠なエフェクトの1つです。これを使うと、音声の音量を一定に保ちながら急な音の差をなくしてくれる、バラついた音を整えてくれる、とりあえずはこんな理解でよろしいでしょう。

ただ超重要エフェクターでありながら、理解は非常に難しい。「かければ良くなる」という単純なものではないという前提に立ちましょう。
エフェクター全般に言えることですが、正しいモノサシを持って適切な設定ができなければ、望む結果と真逆にいってしまうことがあります。

コンプレッサーをコントロールするためには、主に下記のパラメーターを理解している必要があります。

  • レシオ、スレッショルド
  • アタック、リリース
  • インプット、アウトプット

狙いによって、設定は全く変わります。 録音時にかけるべきか、整音時にかけるべきか、それとも両方か?といった視点も含め。 コンプレッサーは特に、理屈を熟知した上で、充分な経験を積まないと、適切に扱うことは不可能です。

声は生もの。ナレーターの声質、レコーディング時の機材コンディション、ナレーター本人体調などによっても、適切な整音処理は変わってきます。 蕎麦屋さんが製麺時に、気温や湿度などによって製法を変えるのと同じ。
なので、ここでは、「こう設定しておけばいいよ」ということは言及しません。 その通りにやってしまったら、事故るから。

とは言え、宅録ナレーター向けに、せめて目安だけお伝えしておきます。

ナレーション音声を、ざっくり整えるためのパラメーター目安
ミュージックバンカー代表
  1. インプット音量は、歪まない程度に大きく入れる
  2. レシオは、3:1~8:1
  3. アタックもリリースも、やや早め~中間
  4. スレッショルドは高め(メーターの触れ方を見ながら少しずつ調整)

・・・なんて言っても、「これで解りました!」なんて言われちゃう方が怖いです。状況によって全く変わります。鵜吞みにしないように!

これ以上は、とても文字で説明できるものではないので、興味ある方はライト声優スクールにお越しください(レッスンコマを使って、スタジオで宅録に関する特別授業をいたします)。

イコライザー処理

通称EQ。音声における、特定の周波数帯域の音量を上げたり下げたりすることができます。高音が物足りなければ上の帯域を上げる、低音がこもっていれば下の帯域を下げる、といった使い方です。 イコライザーもコンプレッサーと同じように、奥が深い。
慣れていないと、「こっちも上げ、そっちも上げ、何か辻褄が合わなくなって、あれもこれも上がって、おかしくなってしまった」なんてよくある話です。

在宅ナレーションのEQ処理に関しては、上げるはしない、で結構です。 上げる理由を、論理的に解説できないのであれば、いじらない。これがエフェクターの基本スタンスです。

一方、宅録ナレーターの皆さんにおいては、下げるEQ、これだけマスターしましょう。

ご自身のナレーション音源を、大きな音量で聴いてみましょう。 聴いてて「嫌だな」「不快だな」、と思うポイントを探れますでしょうか?
例えば、「高音が耳に痛い」「低音がモコモコして気持ち悪い」など。 その帯域部分を割り出して、適度なレベルまでに下げることで、クリアで耳障りの良いナレーション音源に仕上げられる可能性があります。

割り出すためには、「Q」という周波数帯域の幅を調整するパラメーターを理解しなければなりません。 Qが高い場合、調整された周波数の帯域が狭くなります。逆に、Qが低い場合は広い周波数範囲が調整されます。高いQ値は、特定の周波数を強調したり、不要な周波数をカットしたりする際に役立ちます。

私なりのやり方を紹介しておきます。

ナレーション音声の嫌な部分を割り出す方法
ミュージックバンカー代表
  1. イコライザーの「Q」を極限まで高める(狭める)
  2. 不要な周波数だと思われる帯域をまずは大きく上げ、左右にずらしながら聴診器のように嫌なポイントを探る
  3. 嫌な帯域を発見したら、その部分をそのまま逆にマイナスする

はい、こちらも同じです。「これで解りました!」なんて言われちゃう方が怖いです。 やはり・・・学びに来てください(笑)

書き出し音量レベルのポイント

音量調節する宅録ナレーターの指

在宅ナレーターの方が、ナレーションを提出するにあたり、最後に注意しなければならないのが「書き出し音量レベル」です。 「最後に」と言いましたが、本質的には「最初から」、このゴールを意識してすべての設定を行っていなければアウトです。

  • ピーク(歪み)に抵触しないよう、0デシベルを目指す
  • 後から無理やり上げなくて済むよう、録り音から慎重にレベルを稼ぐ
  • ノイズとレベル上げの相対関係を知る

ナレーション提出音源の書き出し音量レベルの設定は、ナレーションの品質や最終的な音声のクオリティに直結する重要なポイントです。 まず、ピーク(歪み)に抵触しないよう、0デシベルを目指すことが基本です。ピークが0デシベルを超えると歪みが生じ、聞き手に不快な音質を提供する可能性があります。そのため、録音時にはデシベルメーターを注意深くモニタリングし、ピークが0デシベルを超えないように調整することが重要です。 また、小さすぎてもNG。歪が生じないギリギリを狙って、できるだけ音量を稼ぐことを目指しましょう。

後から無理やり音量を上げることなく、録音時から慎重にレベルを稼ぐことも重要です。音量を後から上げると、ノイズや歪みが強調される可能性があります。そのため、録音時にできるだけ適切な音量で録音し、必要に応じて微調整することが望ましい。また、マイクからの音をよりクリアに捉えるために、録音環境やマイクの設定にも注意を払いましょう。

さらに、ノイズとレベル上げの相対関係を理解することも重要です。ノイズは一般的にレベルが低い部分に現れやすく、音量を上げると共にノイズも一緒に増幅される傾向があります。そのため、ノイズを極力抑えたクリーンな録音を行うことが大切です。

ナレーション提出音源における書き出し音量レベルの知見は、宅録ナレーターにとって基本的で不可欠な要素。適切な音量でコンテンツを仕上げることで、クリアで聴きやすい音声ファイルを提供しましょう。

今回のまとめ
  • 宅録ナレーターは、参考音源を研究し、自分の音源が目指すゴールと善し悪しのモノサシを得よう
  • 宅録環境では、まず反響音とノイズに神経をとがらせ、機材はその次・・・と心得よう
  • 在宅ナレーションの音声編集と整音のポイントは、ノイズ処理、コンプ、イコライザー
 

宅録ナレーターは、「お金をかけてスタジオを取らなくてよい」「自分のペースで作業が進められる」など、メリットいっぱい。 しかし、「お仕事として成立する質のナレーションを納品する」という前提に立つと、ハードルは決して低くはないのです。
ナレータースキルの向上と並行して、ある程度はレコーディング・エンジニアとしての勉強も必要になります。
結局のところは、やはりプロと組む方が、安く済み、早く自己実現ができるかもしれません。 甘くはないですよね。

でも実のところ、ミュージックバンカーでは、宅録ナレーターの育成に力を入れ始めています。 事務所としても、収録でスタジオが埋まるより、ナレーション案件の大半が宅録で成立してくれる方がコストダウンになるから。

本稿は、当社の在籍ナレーターたちに対して指導している「宅録ナレーターになる方法」という勉強会の概要をまとめたものになります。

宅録ナレーターを目指している方は、当社ナレーターオーディションにエントリーください。