音楽業界も根っこから変わっていく

音楽を制作するAIのイメージ

音楽業界は常に技術革新によって進化を遂げてきました。レコードからカセットテープ、CD、そしてデジタル音楽配信へと変遷してきた歴史の中で、現在、新たな変革をもたらしているのが「生成AI(生成的人工知能)」です。 生成AIとは、人工知能が人間の創造的な活動を模倣し、自動で音楽や映像、テキストなどを生成する技術のことを指します。

例えばChatGPTと聞けば、誰でも何となく耳にしたことはありますよね。こういったツールを使ってやれること、機能や精度の進化は、文字通り日進月歩。1か月ごとに更新していきます。 デザイン、画像、動画、文章、音楽、音声など、考えつく限りあらゆる事象がAIに代替している状況。

特に音楽業界では、生成AIの進化によって新しい音楽制作の方法やビジネスモデルが生まれつつあります。AIが自動で楽曲を作曲したり、アーティストがインスピレーションを得るためのツールとして活用されたりすることで、音楽制作のプロセスが劇的に変化しています。

本ブログでは、生成AIが音楽産業にどのような影響を与えるのか、また音楽制作の概念がどのように変わっていくのかを探ります。 さらに、生成AIを活用した成功事例を交えながら、これから音楽制作に携わろうと考えている歌手志望者やサウンドクリエーター、そして音楽業界関係者に向けて、未来への展望とアドバイスをお届けします。

本記事を読むべき人
  • 音楽業界の未来に不安を感じている業界関係者
  • 今から音楽業界に飛び込んでチャンスをつかもうとする皆さま

生成AIの進化と音楽産業

AIと楽譜のイメージ

AIによる楽曲生成は映画や広告、ゲームなどの音楽制作にも革命をもたらし、AIと人間の協働により、より豊かで多様な音楽が生まれる可能性が高まっています。生成AIが音楽制作の概念をどのように変えていくのか、具体的な事例を交えながら解説します。

生成AIの技術進化

生成AIの技術は近年急速に進化してきました。特にディープラーニングとニューラルネットワークの発展により、AIはより複雑でクリエイティブなタスクを遂行できるようになっています。 例えば、OpenAIが開発したGPT-4はテキスト生成に優れており、音楽分野ではJukedeck、Amper Music、Suno AIといったAIが自動作曲の分野で注目を集めています。

特にSuno AIは、日本語での入力が可能で、日本語の歌詞や曲調を生成することができます。これは、日本の音楽制作者にとって非常に大きな利点です。

これらのAIは、大量の音楽データを学習することで、人間の作曲スタイルや編曲パターンを模倣し、オリジナルの楽曲を生成します。 初期の生成AIはシンプルなメロディーやリズムを作成する程度でしたが、現在では複雑な楽曲構成や感情を表現することも可能となり、人間のクリエイティビティを超える可能性を秘めています。

既存の音楽産業への影響

生成AIの進化は、既存の音楽産業にさまざまな影響を及ぼしています。 まず、AIを利用した自動作曲ツールは、音楽制作の効率を飛躍的に向上させました。これにより、作曲家やプロデューサーは、より短い時間で多くの楽曲を生産できるようになり、コスト削減と生産性向上が実現しています。

さらに、AIによる楽曲生成は、映画や広告、ゲームなどのメディア向けの音楽制作にも革命をもたらしています。これまで高額な費用と時間がかかっていたサウンドトラック制作が、AIを利用することで手軽に行えるようになり、小規模なプロジェクトや個人クリエイターでも高品質な音楽を利用できるようになりました。

一方で、生成AIの台頭により、伝統的な音楽制作の役割が変わりつつあります。作曲家やミュージシャンの仕事がAIに取って代わられるのではないかという懸念も。しかし、多くの専門家は、AIはあくまでツールであり、人間のクリエイティビティを補完するものであると考えています。実際、AIと人間の協働により、より豊かで多様な音楽が生まれる可能性が高いと聞きます。

近い将来、作曲家やミュージシャンと定義づけられる人は、AIに狙った音楽を創らすことが得意な専門家、となるはずです。

次に、生成AIが音楽制作の概念をどのように変えていくのかについて具体的な事例を交えながら解説します。

生成AIが変える音楽制作の概念

AIを駆使しての音楽を制作するミュージシャン

近年、生成AIを用いた音楽制作が注目を集めています。この技術は、音楽制作の効率化と新たな表現の可能性を秘めていますが、一方で課題も存在します。
創造性と完成度から、AI vs 人間どちらに軍配が上がるのでしょうか?

生成AIを用いた音楽制作の事例

生成AIを用いた音楽制作のプラットフォームでは、ユーザーがジャンルやムードを選択するだけで、瞬時に楽曲を生成することができます。 例えば、広告用のバックグラウンドミュージックを短時間で作成することが可能で、クリエイターは自分の作品に合った音楽を手軽に入手できます。

また、AIを活用した音楽制作プロジェクトの一つに、タリン・サザーンのアルバム「I AM AI」があります。このアルバムは、完全にAIを用いて作曲・編曲されたもので、リリース当時大きな話題となりました。 タリン・サザーンは、AIが提供するビートやメロディーを基に、自身のボーカルを加え、ユニークな音楽作品を完成させたと言われています。

古今東西における膨大なヒット曲のパターンを蓄積したAIが作った楽曲と、一人の人間が頑張って勉強して完成させた楽曲は、どちらが優れているのか? 認めたくはないですが、スピードとコストは言わずもがな、質に関しても前者に軍配が上がりそうです。

音楽クリエーターにとってのメリットとデメリット

生成AIの利用には多くのメリットがあります。 まず、時間と労力の節約です。作曲や編曲にかかる時間を大幅に短縮できるため、クリエイターは他の創作活動に時間を割くことができます。また、AIが提供する多様なアイデアやインスピレーションにより、従来の枠にとらわれない斬新な楽曲を生み出すことが可能です。

一方で、デメリットも存在します。 AIに依存しすぎると、クリエイター自身の創造力が低下する恐れがあります。また、生成AIが生成する音楽には、時に感情やニュアンスが欠けることがあります。人間の手による微妙なニュアンスや表現力は、現時点ではAIには再現しきれない部分があり、これが音楽制作における重要な要素となることが多いです。

「AIの音楽制作を人間が越えられない」が前提だとすると、ヒット曲のパターンデータは未来永劫に過去から引用することになり、音楽の進化自体はむしろ停滞すると思います。

実際に音楽生成AIを利用してみた感想

私はSuno AIを利用し、音楽生成を研究中です。 最新のヒット曲をイメージするキーワードを入れるだけで、いま日本のYOUTUBEやSNSなどからバズった曲を彷彿とさせるオリジナル楽曲が大量生産できています。

売れそうなメロディーと今どきの編曲。そして売れそうな歌詞と、流暢でリズムも音程も完璧な日本語の歌。それが10秒で完成します。 歌はじまりというヒットパターンも、きちんと踏襲してくれています。昔から今に至るまで、絶えず積み重ねてきた研究と技術向上の苦労は一瞬で否定(笑)

20年前はそれなりに一時代を担った一部…と自負している私でも、今のヒット曲ド真ん中はとても創れません。難しい、ではなく、感性が違うのです。 AIの助けがなければ無理だが、それが可能となる時代。 ただし、「AIに指示する技術」と「良し悪しを判断する能力」は、それなりに解っている人間でないと不可能だと感じました。

本稿執筆の2024年現在、「こうアップデートされたらいいな」と思うのは、J-POP的な構成と小節の指定機能。 洋楽は、Verse(バース)とFook(フック)という構成が基盤になっています。 だから現在のAIは海外ベースである以上、Aメロ・Bメロ・サビという伝統的な日本の構成を指定するのは、まだ不得意かもしれません。

生成AIと音楽業界のビジネス構造の変化

未来のレコーディング現場

生成AIは、音楽業界のビジネスモデルを大きく変革する可能性を秘めています。従来のモデルでは、アーティストやプロデューサーがスタジオで楽曲を制作し、レコード会社が販売するという流れが主流でした。
しかし、生成AIの登場により、個人や小規模なクリエイターでも低コストで高品質な楽曲を制作できるようになり、音楽ビジネスモデルの変化が予想されます。

ビジネスモデルの変化

生成AIの登場により、音楽業界のビジネスモデルは大きく変化しつつあります。 従来の音楽制作は、アーティストやプロデューサーがスタジオで楽曲を作成し、それをレーベルが販売するという形が主流でした。 しかし、生成AIの技術が進化することで、個人や小規模なクリエイターが低コストで高品質な楽曲を制作できるようになりました。

この結果、レーベルの役割が変化しています。従来は発掘・育成・制作・販売の全てを担っていたレーベルが、今後はアーティスト支援やプロモーションに特化する可能性があります。 また、生成AIを活用することで、楽曲制作のスピードが飛躍的に向上するため、アーティストはより多くの楽曲をリリースし、多様な音楽スタイルを試すことができるようになります。

新たな収益源と課題

生成AIの利用は、新たな収益源を生み出す可能性も秘めています。 例えば、AIが生成した楽曲をライセンス販売するビジネスモデルです。映画や広告、ゲームの制作現場では、オリジナルのサウンドトラックが求められますが、生成AIを利用することで迅速かつコスト効率よく音楽を提供できます。 これにより、小規模な制作会社や個人クリエイターでも高品質な音楽を手軽に利用できるようになります。

また、音楽配信プラットフォームにおけるパーソナライズド音楽体験の提供も可能になります。 AIがユーザーの好みに合わせてプレイリストを生成したり、新しい楽曲を推薦したりすることで、リスナーの満足度が向上し、プラットフォームの収益増加に寄与するでしょう。

しかし、このような新しいビジネスモデルには課題もあります。 著作権やライセンスの問題は依然として複雑だからです。AIが生成した楽曲の著作権は誰に帰属するのか、またその利用に関する法的枠組みが整備されていない場合、トラブルが生じる可能性があります。 また、生成AIの利用が広がることで、人間のクリエイターの仕事が奪われるのではないかという懸念もあります。

生成AIを活用した成功事例

AIライブのイメージ

近年、生成AI(Generative AI)は音楽制作の分野においても大きな注目を集めており、音楽業界の変革を加速させています。
ここでは、生成AIがもたらす革新について、その概要、ビジネスモデルへの影響、具体的な事例、そして考察を詳細に解説します。

ケーススタディ:具体的なアーティストやプロジェクト

生成AIを活用した成功事例として、タリン・サザーンのアルバム「I AM AI」を再度取り上げます。このアルバムは、Amper MusicというAI音楽生成ツールを用いて制作されました。 タリン・サザーンは、AIが提供するビートやメロディーを基に、自身のボーカルを追加し、ユニークな音楽作品を完成させました。彼女はこのプロジェクトを通じて、AIと人間の協働が新しい音楽の可能性を切り開くことを示したと評価されています。

他の事例として、エレクトロニカアーティストのホリー・ハーンドンがあります。彼女は自身のアルバム「PROTO」において、AIを「アヴァター」として使用し、リアルタイムでライブパフォーマンスを行う試みをしました。 ホリー・ハーンドンはAIを利用して、人間の声をリアルタイムで解析・生成し、独自のサウンドスケープを作り上げました。このような試みは、AIが単なるツール以上の存在として音楽制作に貢献できることを示しています。

学べる教訓

これらの成功事例から学べる教訓として、まず第一に、AIは人間のクリエイティビティを補完する存在であるという点です。 AIは膨大なデータからパターンを見出し、新しいアイデアを提案することが得意です。一方で、人間は感情や経験に基づいた独創的な表現を行うことができます。AIと人間の協働により、これまでにない新しい音楽が生み出される可能性があります。

また、生成AIを活用することで、音楽制作のバリアが低くなるという点も重要です。従来は高額な設備や専門的な知識が必要だった音楽制作が、AIの導入によってより多くの人々に開かれることになります。 これにより、多様な背景を持つ新しいアーティストが登場し、音楽シーンがより豊かで多様になるでしょう。

最後に、生成AIの利用には慎重さも求められます。著作権や倫理的な問題に対する適切な対応が求められる中で、AIの利用ガイドラインや法的枠組みの整備が重要です。

今回のまとめ
  • AIの進化により音楽業界は大きな影響を受け、新しい音楽制作方法やビジネスモデルが誕生
  • 生成AIは自動作曲ツールとして活用され、制作プロセスが効率化
  • AIと人間の協働により、新たな音楽が生まれる可能性
  • AIを正しく理解し活用することで、新たなビジネスチャンスを掴む

生成AIの進化は、音楽業界に多大な影響を与えています。AIは音楽制作のプロセスを効率化し、新たなビジネスモデルや収益源を生み出す一方で、著作権や倫理の問題を考慮する必要があります。AIと人間の協働によって、より豊かで多様な音楽が生まれる可能性が広がっています。

これから音楽制作に携わろうと考えている歌手志望者やサウンドクリエーターにとって、AIは強力なツールとなるでしょう。AIを活用することで、効率的かつクリエイティブな音楽制作が可能になります。ただし、AIに依存しすぎず、自身の独自性や創造力を大切にすることが重要です。

音楽業界関係者にとっても、AIの進化を正しく理解し、適切に活用することで、新たなビジネスチャンスを掴むことができるでしょう。 未来の音楽シーンは、AIと人間の協働によって、これまでにない新しいステージへと進化していくことが期待されます。