審査現場から本音で語ります
私たちは、歌手・声優として次世代を担う才能を探すべく、年間を通じて数多くのオーディションを開催しています。夢を持って門を叩く若者がいる一方で、「なぜこの人は応募してきたのか?」と首をかしげざるを得ないケースも少なくありません。
今回は、これからオーディションに応募しようとする皆さんに向けて、あえて厳しい視点でお話しします。
こんな志望者は向き合いに困る」「こういう人とは仕事をしたくない」そんな本音を、現場の目線でお伝えします。
この内容は、決してネガティブなインフォメーションではありません。むしろ、チャンスを掴みたいあなたに「地雷を踏まないための知見」として活かしてほしいのです。
- 芸能界を本気で目指す初心者〜若手志望者
- 実績や経験があるが、再スタートを考えている中堅層
実は扱いづらい? 経歴・経験があり過ぎる人
一番、意外に見えそうなパターンから挙げましょう。
よく「実績があれば有利」と思われがちですが、私たちが身構えるのはむしろ「実績があり過ぎる人」です。実は芸能の世界では、経験値の高さが裏目に出ることもあるという現実があります。「実績=成功」とは限らない現実
過去にメジャーデビュー経験がある、他事務所で活動していた、受賞歴がある――その経験は一見輝かしく見えますが、私たちはその「続きを見る」目を持っています。
というのも、仮に実績が本当に功を奏していたならば、わざわざ一般公募のオーディションに出る必要はないはず。過去の栄光があるにもかかわらず、今そのポジションを失っているという現実が、我々の視界にははっきりと映るのです。プライドが邪魔をする瞬間
過去にある程度の評価を受けた人ほど、「今さらレッスンからやり直すのは納得がいかない」「自分はこのスタイルで十分やれる」という意識が強く出る傾向にあります。そうなると、指導や育成が非常に難しくなる。
新人と同じように泥臭くやっていけるのか、方向性のすり合わせはできるのか、その柔軟性がないと、どんなに技術や実績があっても道は行き止まりなのです。
完成されちゃってるんだよな・・
昔、私が音楽プロデューサーだった時代、上司にアーティスト候補者をプレゼンする際にこう言われたことがあります。私としては、実績あり、歌もかなり上手いボーカリストを発掘・提案したつもりでしたが、否定されてビックリしました。「完成されているから良い」と思っていたのです。
しかし、逆に扱いづらいという反応を受け、なるほどな、と納得した記憶があります。
うーん、完成されちゃってるんだよねぇ・・
輝かしいプロフィールを持参する方と対峙するとき、いつもこの言葉が頭をよぎります。
【現場の事例:ある経験者の一言で空気が変わった】
- 声優オーディションでの一コマ
- 審査員:
- 「今後、もし新しいキャラクター性や演出スタイルを求められたら、どのように対応されますか?」
- 志望者:
- 「うーん、私はこれまで○○系の役ばかりやってきたので、あまり路線変更は考えてないですね。正直、そのまま活かしてほしいです。」
この瞬間、審査員の表情が曇りました。柔軟性のない人材は、どれだけ実力があってもプロダクションにとってリスクです。
【こう答えるのが正解だった】

○○系の役を多くやってきましたが、求められることや新しい方向性にも積極的に挑戦したいです。改めて勉強したいと思います。
過去を活かしながらも、今後の成長と変化に前向きな姿勢が見える答え方。これなら審査員も安心して一緒に仕事を考えられます。
経歴があることは武器にもなるが、それを振りかざす態度や、過去に縛られたままの人は、こちらとしても扱いにくい。
実績があるならこそ、謙虚に、今一度「なぜ自分はここにいるのか」を自問すべきです。
「時間がない」「お金がない」と言い訳する人
芸能の世界で、この言葉は2大禁句。
「平日は仕事があって時間が取れません」「レッスンに割くお金はありません」こういう言葉を聞いた瞬間、審査員の関心は急激に下がります。
この業界は、「他に替わりがきかない自分」になりたい人達の集まりですよね。つまりあなたでなければならない理由を証明できなければ、土俵にすら立てないわけです。
その段階で真っ先に「言い訳」が出る人には、正直言って将来性を感じません。
言い訳を行動に変えられるかが分かれ道
「忙しい」「余裕がない」こと自体を責めているのではありません。それでもどうにか工夫して時間を作ったり、生活の中で可能な範囲で練習を重ねたりといった行動があるかどうかを見ているのです。
そう、みんな大変なのです。あなたなど、まだまだ甘い状況かもしれません。もっと大変な人たちが、自分の目標に向かって言い訳せずに未来を掴もうとしている。そんな中で勝っていかねばならないわけです。
全ては優先順位の問題。時間が無いと言っても、ゲームはしてるんでしょ?お金がないと言っても、月2回くらいは飲みに行っているんでしょ?
本当に「時間がない」「お金がない」なら、歌手になりたいとか声優になりたいとか、夢見てないで、ハローワークで就職先を見つけて勤労してほしいと思います。
本質的に芸能人はみんな個人事業主
そもそも、生活の地盤に不安がある人は、芸能などに足を踏み入れてはなりません。芸能で身を立てるということは、個人事業主になるということと同義です。今までの貯蓄や経験を原資に、自分という商品に投資をする、これが正しいスタンス。
人生をかけて事業を興せる覚悟と状況がある人だけに、挑戦できる資格があるのです。
「雇ってくれるところが無いから、歌で生きて行こうと決めました」などと言いのけてしまう人もいます。
そういう人には、「歌を生業にするってことは、オリンピックに出るより難しいことかもしれませんよ?」と優しく諭してあげます。
【現場の事例:努力を語るべき場面で…】
- 歌手オーディションでの一コマ
- 審査員:
- 「これまでどのようなトレーニングや積み重ねしてきましたか?」
- 志望者:
- 「以前からバイトが忙しくて、正直あまりできていないんです…。やる気はあるんですけど…」
やる気があるなら、どうにかして時間を作る。それができないなら、この世界で続けていくのはムリ(まあどの世界であっても厳しい)と、審査員全員が感じました。
【こう答えるのが正解だった】

週に一度だけでもボイトレを続けています。通勤中に台本を読み込んでイメージトレーニングも欠かしません。限られた時間でもできることを探して実践しています。
これなら、努力している姿勢が明確に伝わります。環境の制約の中で工夫し、行動に移している人は応援したくなるのです。
時間やお金がないのは、みんな同じ。でもそれを言い訳にしない人だけが、道を切り拓いていく。
言い訳からは、何も生まれない。
同時に複数オーディションを受けている人
「とりあえず応募」は最も失礼な行為。
昔からオーディション巡りをしている人たちは後を絶ちません。ネットで見つけた募集に片っ端からエントリーする人に、私たちはため息をつきます。
受かればラッキーとでも思っているのでしょうか?その上で、「受かった中から」自分が選ぼうとでも?
なぜ志望したのか聞くと、「ネットで見かけたので」と一言ボソッと答える猛者もいます。
きみ、失礼だね、大人の時間を何だと思っているの?
が本音です。
選ぶのは常に主催者側であり、応募者側ではない
「オーディションを受させてほしい」「私を審査してほしい」とアクションを起こしてくるのは、いつだって応募者の方です。
主催者があなたに対して「ウチに応募していただけませんか?」と問い合わせすることはあり得ないのです。
よって、選ぶのは常に主催者側である。応募者自らからエントリーしたにもかかわらず、エントリー先を天秤にかけるなど言語道断。
なぜこのオーディションに応募したのか、なぜ弊社と関わりを持ちたいのか、その明確な志望動機は審査員から必ず聞かれるし、志望者にはそれに応える義務がある。
そのポイントにおいて、しどろもどろの回答しかできなかったら、恥ずかしいと思いませんか?
だからこそ弊社ミュージックバンカーは、他社ではあり得ないほど、企業ビジョンや価値観などを具体的かつ多数公開しています。エントリー前に、よく読んでください。
その上で、この会社とタッグを組みたい、という明確な意思を持った人と「だけ」、お会いしたいと思っています。
真剣度の低い応募者に割く時間はない
オーディションの運営には、想像以上のコストがかかっています。会場費、スタッフの人件費、審査員のスケジュール調整。一人の応募者を審査するために、多くの大人が時間と労力を投じているのです。
あなたにとっては「無料の機会」でも、主催者側はお金がかかっているということを想像してください。
よく、「自分の実力を試しに来ました」とか「今日はアドバイスをもらいに来ました」という人がいます。
しかし私はこう返したくなります。
そうか、自分を試すのにウチは利用されちゃったのかな?
あなたにアドバイスしたらウチはいくら儲かるんですかね?
意地悪ですかね(笑)
そうではなくて、本質の解像度を上げましょう。
たとえば弊社オーディションは、ミュージックバンカーの次を担うアーティスト・タレントを発掘するための場なのです。
その趣旨とずれていることが判明した方は、3分でお帰りいただいています。
【現場の事例:浮かび上がる軽さ】
- ナレーターオーディションでの一コマ
- 審査員:
- 「今回、うちのオーディションを受けようと思った決め手は何ですか?」
- 志望者:
- 「あ、特に理由はなくて、色々受けてる中のひとつです。もしご縁があれば、くらいの気持ちで…」
この言葉に、審査員の心は一気に冷めました。受かる気がないなら、なぜ来たのか?それが本音です。
【こう答えるのが正解だった】

○○プロダクションさんの育成方針や、過去に所属されていた方の活動実績を拝見し、自分もその環境で成長したいと思いました。他にも検討はしていましたが、こちらに賭けたいと強く思い応募しました。
このように「調べた上で選んだ」いう姿勢を見せることで、本気度が伝わります。誰と一緒に走りたいかは、やはり誠意で決まるのです。
オーディションを「数撃ちゃ当たる」と捉える人は、遅かれ早かれ信用を失います。
チャンスを得ようと手を広げている行為は、一つ一つ丁寧にチャンスを潰していっている行為。そう理解しましょう。
- 過去の実績や経験に固執せず、謙虚かつ柔軟な姿勢で臨むこと
- 「本気度」や「覚悟」を行動で示すこと
ちなみに番外編として、上記3例よりはるかに悪いケースを最後に書いておきます。
それは、当日無断キャンセルです。
昔から若年層を中心に、一定数いますね。
そういうことが平気できるような人と出会わなくて済んだ、よかった~
と、私は思うようにしています。
でも、もし私の時給が仮に3万円だったとしたら、どうですかね。
「私は今日、彼(彼女)に3万円を奪われた」と悔しがっても、よろしいでしょうか?
オーディションは、単なる実力審査ではありません。姿勢、覚悟、柔軟性、そして誠意、すべてが見られています。どれほどの経歴があっても、どれほどの夢を語っても、行動が伴わなければ評価にはつながりません。
自分を選んでもらう立場であることを理解し、謙虚に、そして本気で向き合う姿勢こそが、審査員の心を動かします。
「あなたでなければならない理由」。いまはまだ見つからなくても、向き合うことによって一緒に作っていくことは可能かもしれません。
「こんなオーディション志望者は嫌だ!」とスタート時点から終了してしまわないように。