「価値」を上げて「根拠」を示す

歌手になりたい人のイメージ

男性アーティスト

歌手になるにはどうしたら良いですか?

昔も今もよく質問されます。

オーディションに合格する、事務所に所属する、レコード会社にフックアップしてもらう、ライブをたくさんやる、曲を作れるようになる、YouTubeチャンネルを立ち上げる、など…
表面的な回答は、世の中にたくさん溢れていることでしょう。

しかし、断片的な手段をいくら考えても無意味です。
それより「目的論的な理解」から行動指針を組み立てなければ、「いつまで経っても歌手になれない自分」に失望するのがオチ。ガンバれば頑張るほど、期待と現実の落差は激しく、自己否定につながることでしょう。

歌手になるには、どうすればいいのか?実は方法に正解はありません。
例えば、音楽ジャンル/スタイルによっても、取り得る手段は違いますし、世の中のトレンド、本人のポテンシャル、環境、運など、様々なパラメーターによって、成否は影響します。
つまり歌手になるには、いくら何かを実践したところで、「今のあなたには関係ない」ことの方が多いのです。

根本はそこにはあらず。ではスタートすべき「目的論的な理解」とは何なのか?
それは下記につきます。

歌手としての「価値」を上げて、売れる「根拠」を示す

本稿では、「価値」と「根拠」を根本的な2つのキーワードとして掘り下げていきます。

本記事を読むべき人
  • 歌手になるには何をどうすれば良いかわからない人
  • 歌手になるにはと、活動を頑張っているが、結果が出ていない

歌手になるには知っておきたい行動指針の前提

サインに応じるアーティスト

自分の「価値」を上げて、その「根拠」を示す。チャンスを得るのに必要なテーマはこれだけ。
これができれば、レコード会社の方から声がかかり、あなたに頭を下げて契約書が提示されるでしょう。
商品市場の原理と全く同じで、実にシンプル。逆に言えば、「売れる理由」さえ示せれば必ず勝てるのです。

歌手志望者が思うように結果を出せないのは、価値と根拠が不足しているから、と理由を一言に括ることが可能です。
もちろん、歌手になりたい9割以上の人が成せないほど難しいことであるのは事実。
ただ「価値を上げて根拠を示せる」唯一の人は、あなた自身であることも事実です。

レコード会社や音楽業界のお偉いさんが「あなたの価値」を「あなたのために」ゼロから創ってくれるわけではない。
「そこを何とかしてもらいたいんですけど…」と弊社のオーディションにくる人も多いですが、それは少し甘いかも。
アーティストバリューの創造を、自ら成せずして何故アーティストを名乗れるのでしょうか?

事務所の役目

「価値ある素材」を更に高くすること(マネジメント)

レコード会社の役目

「価値高い素材」を商品として広げること(制作・宣伝・営業)

一方、「価値ある素材」になることは、歌手になりたいあなた自身の役割なのです。自分に価値がある根拠を証明することで、ようやく周囲の協力が得られるのだ、と理解してください。

歌手になるには理解すべき価値づくりについて

歌手になりたいシンガーたち

では、アーティストの価値とは何なのでしょうか?

歌唱力+○○=強み

まず当たり前ですが、「圧倒的な歌唱力」は前提中の前提(ここからして不安な方は、歌手志望専門のボイストレーニングに通うところからスタートです)。

その上で…ステージングがうまい、インフルエンサー、帰国子女でネイティブだ、まだ10代、ルックスが良い、ファッションや世界観が独創的、多才…
考えればまだまだ沢山ありそうですね。

これらを、あなたが持つ複数のアドバンテージと組み合わせて裏付けできる、これが価値。

歌手になりたいあなたにとって、価値とは2つの概念に集約されます。

  • 「どの要因で、どれだけ注目されているのか?」
  • 「君でなければならない理由は何なのか?」

例えば、あいみょん。
中学でギターを始め、高校1年で曲を作り始め、圧倒的な歌唱力がある。
YouTubeを見た音楽業界の人が、twitterのDMで声をかけてきたところからスタートしています。そこからじっくり数年育てられ、満を持してデビュー。

あいみょんが、当時高校生ではなく、25歳だったら世に出ていなかったことでしょう。「10代」にもかかわらず、才能のある「シンガーソングライター」だったから、価値があったのです。

もう少し世代をさかのぼってみましょう。
福山雅治や柴崎コウは、歌がうまくて、役者も出来て、器量良し。つまり「多才」、という価値が認められます。
いきものがかりは、男女混合グループのストリートミュージシャンという「希少性」と、地元海老名からの「強力な応援」を得たことがキッカケになっています。

はたして彼らの価値は、果たして大人が介入して創られたものなのか?
いや、その根本にあるのは、純粋に彼ら自身の力量だと思います。

そして価値とは、「他に代わりが利かない、あなただけの強み」と言えるでしょう。
だとすると、歌手になりたいあなたが、真っ先にやるべきは強みを築き、価値を生み出すことです。
それが何もないのに、ライブを頑張ったって、レコード会社とのコネを一生懸命作ったって、望む結果につながることは100%ありません。

価値を足がかりにして戦略を立てる

例えば事務所のオーディションを受ける人は、下記のようにプレゼンテーションしてみてください。

私は歌がうまい上に、○○という強みがあるから、アーティストとしての価値がある

まず歌手になりたいあなた自身が、自らの価値を示せば、必ずチャンスが生まれます。
なぜなら事務所は、あなたの価値を足がかりにして、はじめて戦略立案できるからです。
戦略立案というのは、下記のような例。

価値ポイント
  • シンガーソングライターとして才能があり、絶対売れちゃうよね、という強力な持ち曲がある
  • かねてより、インスタで意外とフォロワー数が多い
懸念ポイント
  • ルックスは可もなく不可もない
  • 年はもう26歳

であれば、

  • あえて顔出しはせずに、謎を残したキャラづくりで、コンテンツ力で勝負してみよう。
  • 例えばYOASOBIをベンチマーク(参考)にして、アニメ主体のMVをつくってみよう。
  • Instagramを中心にフォロワー数を作り、、YouTubeの再生数が30万いったら、レコード会社に話を持って行ってみよう。

事務所やレコード会社の仕事とは、こういう戦略を立てて、遂行することです。
決して、誰かの夢を叶えてあげるボランティア団体ではない

ちなみに、大手事務所における、特徴的なマーケット戦略事例も触れておきましょう。

ジャニーズの場合は、まずユニット内のメンバー各々に特技を持たせ、キャラを独立させます。そしてメンバーごとにターゲットとなる世代を変えてアプローチ。結果、子供から親世代まで幅広く受け入れられます。
かつてLDHがEXILEを急伸させた背景には、まずメンバーをビックリするくらい増やすことでインパクトを与えました。次に各メンバーを個別に打ち出すことで、収益を拡大させました。意外と坂道シリーズ(46グループ)とEXILEとは、戦略的に類似するわけですね。

歌手になるには必要な根拠とは

歌手になりたい人が目指す場所

歌手になりたいあなたに、もし価値があるならば、次は「価値を証明」しなければなりません。
それが根拠です。

歌手にとって根拠とはファンの数

例えば、「ファンの数」というのは根拠として最も強力な概念です。
ファンの数がつかめていれば、マーケットが見えてくる。だからこそ、ビジネスになり得るのです。

あなたのバンドは、ライブで毎回500人集めるとしましょう。
すると周りのスタッフは、「このバンドであれば、渋谷クアトロでライブが出来るな、クアトロで成功すれば次は赤坂ブリッツに移れるな」、と未来をイメージしやすいわけです。
500人を1,000人、1,000人を3,000人に成長させること。

あなたに明確な価値があり、だからこそ周りの協力が仰げるのなら難しくありません。
しかし、あなたに現時点でファンが一人もいないとするなら、どうなりますか?
事務所のスタッフが「あなたのために、明日から500人のファンを作って差し上げる」ことなど、不可能なのです。

ファンを作るのは、歌手になりたいあなた自身の仕事

まずは雪を握り固めて「タネ」を作り、持ってきて下さい。そうしたら一緒に転がして大きな雪だるまを作りましょう、これが大人たち側のスタンスです。

「タネ」の具体的な数値目標は、たとえば「ワンマンライブ動員200人」に設定してみましょうか。
毎回安定してそれだけ集められるなら、小規模なツアー計画も視野に入るかもしれません。
上に行きたければ、そこがスタートラインです。

もう一つ、自主制作盤の売上枚数というのも根拠になりますね。

やはり数字がモノ言うわけです。
「出身県(地元)限定で3,000枚が1か月で完売した」
このような既成事実を作るだけで、メーカーのノリ方が違います。

「地元で3,000枚売ったのであれば、全国展開すれば10,000枚は見えるのではないか?10,000枚売れるのであれば、メディアにもアプローチしやすいよね」

理屈はライブ動員と同じで、先をイメージできるかどうかが肝です。

レコード会社内だって根拠を求められる

私はレコード会社時代、長年、アーティストのプロデュースをしてきました。
しかし、新人を売り出そうとする際は、毎回苦労したものです。
キャリアの大半は制作セクションに在籍しており、比較的アーティストたちと近いスタンスや感覚でした。

今でこそ、歌手になりたい志望者に「価値と根拠の話」をしていますが、かつてまだ20代の若い私はこう思っていました。

「宣伝するのはプロモーター、営業するのはセールスマンの仕事だろ?」

売れる根拠をつくってくれるのは、そういう人たちだと勘違いしていたのです。
しかし有力なアーティスト候補者を見つけ、楽曲制作まではできても、商品として売り出すにあたっては営業や宣伝セクションの協力を得なければなりませんよね。
そこで求められたのが、やはり売れる根拠でした。

私は「確かにまだファンは少ないかもしれませんけど、ライブは良いんです。出してくれれば必ず成功しますから!」と関係各所にプレゼンテーションしました。
でも、「まずインディーでリリースして、先に実績を証明してみたら?」などと、打ち返される。同じ社内案件ですら「売れる根拠を示せ」と言われてしまうのです。

宣伝・営業を巻き込めない以上、話は進みません。
まあでも、そりゃそうですよね。アーティストの価値をロジカルに証明できないのですから。
やはり人を動かすには、数字に裏付けされた根拠が必要なのです。
自分を自分で売り込む段階であれば、それはアーティスト本人であっても同じ。

ちなみに、インディーでそれなりの販売枚数を挙げたアーティスト案件に対しては、協力的だったことも付け加えておきます。

今は価値を創りやすく、根拠を証明しやすい時代

歌をうたう歌手志望者

歌手がフックアップされるにあたり、ひと昔前は、イケメン、美人、カワイイといったルックス要素が有力な価値としてウェイトを占めていました。
なぜなら、マスメディアとしてのテレビこそが、音楽業界の矛先だったから。

しかし、最近はそうとは限らない。ルックスよりも純粋なる歌声や楽曲で、アーティストの価値は正当に評価されやすい時代だと断言できます。

SNSやYouTubeなどが影響力の中心になってきた背景があるのでしょう。つまり、人が求めているのは共感できるコンテンツ。
そして、人気のバロメーターは即数字となって共有できる点からも、注目度を測りやすくなりました。

歌手になるには、今は価値を創りやすく、根拠を証明しやすい時代です。

新たな前提要件の出現

その代わり。
近年では「歌がうまい」の次に、新たな「前提要件」が出てきました。
それは「発信力」です。

インターネット上における影響力、バズらせる力、コンテンツ企画力。セルフプロデュース能力の一部と言っても良いかもしれません。
今現在、まだその力はなくても、せめて発信力を高めるべく自ら動き出すこと。

発信は、昔は個人に求めることがなかったファクター。
それこそ音楽業界が組織としてやっていたことを、個人ができなければならない時代です。
なぜならインターネット上の発信は、「個人でもできてしかるべき」と見なされるからです。

歌を磨き、発信力を高め、「自分でなければならない理由」を何とか見つけ出してください。小さなものであっても、何か一つでもあれば、事務所が広げてくれるかもしれません。

今回のまとめ
  • 歌手になるには、自分の強みを見つけて価値を上げるべし
  • 歌手として価値があるなら、根拠をファンの数で証明すべし
  • 前提としては、圧倒的な歌唱力に加え、発信力をつけていくこと

「価値を創り、根拠を示す」 …神のみぞなせる業、というほどハードルは高くないはずです。
なぜなら、皆さんが知っている「売れている」アーティストたちは、誰もがクリアしていることだから。

たとえ「売れている状況」が実際は本人以外の要因だったとしても、彼らが少なくとも「認められてチャンスを得た」のには、必ず理由があります。

この真実からさえ目を逸らさなければ、必ず道は見えてくることでしょう。