エンタメ業界における顔つなぎのリスク

紹介してくださいのワナのイメージ

エンターテインメント業界は、多くの人が夢を追いかける場であり、人脈や紹介が成功への鍵となることが少なくありません。オーディションやプロジェクトで新しい才能が求められる際、信用のおける人物の推薦が決定的な役割を果たすことがあります。

例えば、アーティスト声優などの活動者は、自分だけの力で仕事を得ることが難しいこともあり、他者の推薦や紹介が新しいステージへの扉を開くことも少なくありません。
しかし、この業界での「紹介」には大きなリスクが伴うことも忘れてはなりません。信用関係が非常に重要な業界だからこそ、軽率な紹介は当事者だけでなく、紹介者にも悪影響を与える可能性があります。

男性イメージ

○○さんと知り合いなんですか!紹介してくれませんか?

女性イメージ

水谷さんのコネで、○○さん、安くやってくれませんかね?

男性イメージ

○○さん、俺のライブに来てくれませんかね?せめてデモだけでも渡してくれませんか?

昔からこういうシーンは多々直面してきましたが、その実現はなかなか難しいものです。
本稿では、エンターテインメント業界における顔つなぎ(紹介)のリスクに関して、具体的な事例を交えて深堀りします。

本記事を読むべき人
  • 自分を売り込もうと焦りを感じている方
  • 業界はコネや人脈がすべてと考えている方

紹介によって失う紹介者の信用

人間関係図

図のような人間関係において。

たとえ私とAさんが毎月のように飲みに行く仲であっても、Bさんの事をAさんに容易く顔つなぎすることは躊躇します。
なぜなら、人を人に紹介するという行為は紹介者にとって大きなリスクがあるから。

「別に減るもんじゃあるまいし」と思っていませんか?違います。
下手に紹介すると、少なくとも私は一番失ってはならないものを失う可能性があります。

それは、信用です

例えば、私がBさんのことを「心から人にオススメできない」のに、曲げてAさんに紹介する席を設けたとしましょう。
私が言えるのは、

水谷

こちらはBです。こちらはAさんです。あとはどうぞよろしくお願いします。

これだけです。そこから何が生まれるのでしょうか?

Aさんからしてみれば、「ああ、はい、どうも(めんどくさいな・・)」ですよね。
そんな空気の中、Bが張り切ってAさんにプレゼンテーションやら、お願い事なんて始めてしまったら、もう最悪です。
「機会があれば、是非」…と濁されて、終わり。

さらに後日、私の手が離れてしまったところで、BさんがAさんに失礼を働いてしまったとしたら…?
Bさんに対するAさんのネガティブな印象は、当然紹介者の私に向いてしまいます。

男性イメージ

水谷から誰か紹介したい、と言われたら注意だな

これは顔を潰されたという状況です。
すると、それ以降、私はAさんに誰も繋げられなくなってしまうのです。

「ライブ見に来てほしいです!」これも安易に協力できません。
私の中でBさんの売りポイントも狙いも定まってないのに、レコード会社のお偉いさん(Aさん)を連れて行ったとして、どうなるでしょうか?
たとえ「彼、良いね」とコメントが出たとしても、ただそれだけです。
続く言葉は「頑張ってください!」、以上。

もし私がAさんの立場で、誰かからBさんに相当する人を紹介受けるなら、会う目的や議題をあらかじめ確認します。
そこが曖昧なら、基本的には会いません。

紹介には大きなリスクが潜んでおり、そのリスクを理解せずに安易に紹介を行うことは、思わぬトラブルを引き起こす可能性があります。特にエンターテインメント業界では、以下のような問題点が挙げられます。

信用の崩壊

紹介された人物が期待に応えられない場合、その失敗は紹介者の信用をも揺るがすことに。結果として、紹介者自身の評判が悪化し、今後のビジネスに悪影響を与える可能性がある。

相性のミスマッチ

紹介された人物が企業やプロジェクトの期待やニーズに合わない場合、相手にとっても紹介者にとっても、互いに負担を強いる結果に。お互いの価値観や目的が異なる場合、双方にとってストレスを生む可能性が高い。

誤解の発生

紹介者の意図や紹介された側のスキルや経験に対する認識がずれることで、誤解やトラブルが発生することがある。業界特有のスピード感や結果を重視する傾向が強い現場では、こうした誤解が大きな問題に発展しかねない。

どんなケースなら繋げられるのか?

レコード会社の人に紹介されるアーティスト

例えば、私とAさんがプロジェクトの話をしていたとしましょう。

男性イメージ

水谷君、こんな人いない?

水谷

いますよ!うちにBというのが。会ってみます?

男性イメージ

是非!

こういう流れであれば、紹介できます。
つまりAさんから求めてきた場合のみ、実りあるマッチングができるのです。
これが「売り込み」というもの。決して「ニーズのないところ」に捻じ込むのが「売り込み」ではないことを知ってください。

それを無理やり行ってしまうと、私(事務所)とAさんの間に亀裂が入ります。
よく「私を売り込んでほしい」と言ってミュージックバンカーの門を叩いてくる人がいますが、例え事務所に入ったところで、ニーズやマーケットが無いなら売り込みようがないのです。

また、こんなケースはアリでしょう。

Bさんは可愛がっている私の後輩。よく慕って付いてきてくれるし、TPOもあり、オモロイ奴。
たまたまAさんと飲みに行く機会になったので、私は「Bも連れて行って良いか?」と聞いたら快諾。
期待通りBさんのおかげで盛り上がり、Aさんも喜んでくれた。

こんな関係作りが先にあるなら、Bさんの「来月のライブ」にも、Aさんは足を運んでくれるかもしれません。
チャンスって、こんな流れから生まれてくることも多いのです。

BさんをAさんに紹介できるかどうかは、「私とAさんのコネクション度」ではなく、「私のBさんに対する信用度」なわけです。
もう一つ重要なのは、「AさんのBさんに対するニーズ」です。

言い換えると所属タレントBさんが、例えば私経由でチャンスを得るためには、下記二つのポイントを押さえる必要があります。

  1. 私からの信頼を、普段から貯蓄しておく
  2. 脈絡のない売り込みではなく、先にAさんのニーズを生み出すこと

Aさんのニーズを先に生み出す、なんとも難しいことですね。
でも、少なくとも【1】さえあれば、【2】は一緒に考えていこう、となるかもしれません。

まず、私がBさんを推していなければ、そもそもアウトですよね。
逆に「推しているBさん」であれば、堂々とAさんに繋げたいと思うし、仮にAさんの反応が鈍くても後悔しないでしょう。

特にこういう業界では、「人が人をフックアップして」初めてチャンスを得られるわけです。どんなに技術があろうが、「コイツをフックアップしたい」と相手に心から思わせなければ、道は拓けない。
そう思わせる確証がなければ、BさんにAさんを引き合わすことは出来ません。

人が人を紹介するのって、ホント難しいんですよね。
リスクを回避し、信用性を保ちながら効果的な紹介を行うためには、いくつかのポイントに留意する必要があります。

ニーズの理解

紹介される側、紹介を依頼する側、そして紹介を受ける側のニーズや目標を十分に理解した上で、相性が合うかどうかを判断。企業やプロジェクトの特性や求める人材像を確認し、それに沿った紹介を行うことでミスマッチを避けることが可能。

信用の可視化

紹介する人物に対する信用を他者に示すことが必要。過去の実績や評判を具体的に示し、ただの「知り合い」ではなく、その人がどのように価値を提供できるかを説明することで、信用性を高めることがでる。

双方の合意

一方的に紹介するのではなく、紹介される側の意向も尊重しよう。特に、紹介される側にとっても、そのプロジェクトや相手が本当に魅力的であるかを確認し、無理強いしないことが大切。

業界はコネや人脈が重要なのは間違いないでしょう。
だからこそ、その運用には慎重を期するということ。勝ち筋のない人繋ぎを戦略無しに行うことは関係者すべてにリスクを負わせるので、安易に「紹介してください」を求めてはなりません。

紹介してもらうためには、紹介され足る根拠を自分で示せることが先。

今回のまとめ
  • 安易に紹介を求めるな。紹介された人物が期待に応えられない場合、紹介者自身の信用も損なわれる可能性がある。
  • 紹介前に紹介相手のニーズや市場トレンドを十分に理解し、慎重な判断と相互の合意を事前確認することが重要。

エンターテインメント業界において、信用は最も大切な資産です。紹介を通じて他者を支援する際も、その信用を損なわないように慎重に行動することが求められます。リスクを回避し、双方にとって有益な結果を生む紹介を行うためには、細心の注意を払い、長期的な視野を持つことが重要です。

あと最後に付け加えておきます。 「私は○○と繋がってる」とか「○○は私の友達の友達」とか「私は○○に顔が利く」といった、二言目には「知り合い自慢」をする人を私は信用しません。話題の中の多少のことであれば、「そんなんだ、すごいねぇ」と素直に思いますが、会話するとすぐそうなる人いますよね?

嫌いです。