芸能の道づくりにおける立ち回り方

「関係値」を軽んじる者にチャンスなしのイメージ

夜のレッスン帰り、ひとりスマホを見つめながらため息をつく新人ボーカリスト。

歌手志望の女の子

どうして自分には声がかからないんだろう

そんな吐露を、私は何百回聞いてきたかわかりません。

芸能の世界は“人が人を引き上げる”構造で成り立っています。あなたがどれほど歌がうまくても、芝居が巧くても、チャンスを与える立場の人──つまりプロデューサーやスポンサー、クライアントが「あなたを起用したい」と思わなければ、次の扉は開かれません。

すべてのチャンスは、「起用したいと思える人」に行くということ。

気づいていますか?

どんなに頑張っていたとしても、顔と名前が一致していないような人に声がかかることなど、物理的にあり得ないことに。
知られていない、ということは「存在していない」のと同義。 裁量者に認知されていなければ、実際の仕事は動かないのです。

Q:ではあなたはどう立ち回れば良いのか?

それはチャンスを与える立場の人や組織そのものと、戦略的に関係値(絆)を深めること。

★ 気に入ってもらえる ★目にかけてもらえる

このポイントをおざなりにしてチャンスを掴んだ人など、これまで一人も見たことがありません。つまり人柄、コミュ力、社交性などは、技能や実力があることと比類するくらい重要なことだと断言します。

芸能の世界では「人との関係値」こそがチャンスを生む燃料
ここでは関係づくりのリアルな現場感と、成功・失敗を分ける“立ち回り方”の真意を語ります。

本記事を読むべき人
  • 技能には自信があるが、チャンスに恵まれないと感じている人
  • 芸能界で「どう立ち回ればいいか」具体的な行動指針を求めている人

関係値が生む“見えない評価軸”

番組終了後の打ち上げ

私は、誰にも媚びずに私の実力だけで成功してみせる!

そう意気込む人は多いですが、私はある意味──逃げに聞こえます。
この言葉は、安易に口にしないほうが良い。「では、頑張ってね!」以外のレスポンスは生まれないからです。

実力で信頼を勝ち取り、実力で成功を納めるのは前提。しかし、その実力というファクターの中に「関係構築」の概念が欠けている人は、土俵にも乗れないということです。

AさんとBさんの比較から学ぶ

演者であるあなたに心があるように、裁量を持つ側にも「人としての心情」があります。 だからこそ、判断基準はいつも「定量的な数字」ではなく「定性的な感情」を含んでいる。

たとえば、こんな二人がいたとします。

技能レベル 関係値
Aさん 85 10
Bさん 70 90

この場合、必ずBさんがチャンスを掴みます。なぜなら、依頼する側に「安心感」「期待感」「一緒に仕事したい」という感情があるからです。

ただしBさんの技能が40だったら、さすがに起用は難しい。でも──ここが大事なポイントです。

だからといってAさんにチャンスがまわるわけではない!

「Bさんを見送る=Aさんが浮上」ではないのです。 むしろ、「次の候補はいない」と判断されて、プロジェクト自体が立ち消えになることも多いのです。

では、Bさんってどういうタイプの人だったのか?それは、次のようなタイプです。

  • 現場や事務所でよく顔を見る(存在を感じる)
  • 報連相をこまめにする
  • 笑顔と挨拶が心地いい
  • プロジェクトやイベントに積極的に参加する
  • 食事や打ち上げにも積極的に参加する

これらはすべて、“接点=信頼”を積み重ねるアクション。
「飲みニュケーション」なんて古い? 昭和? 断って干されるなんて〇〇ハラスメント?──否、少なくとも業界に限るなら、大切にした方が良いですよ。

誘う上席は「お楽しみ」であなたに声をかけるわけではなく、あなたに「関係値を築かせてあげる口実」を親切に提示しているのです。 それはおそらく「最初で最後のチャンス」、と理解すべき。

「君にチャンスをあげたい」「試しにやらせてみるか」

という感情の形成。芸能界に限らず、ビジネスの世界や一般社会でも同じです。「私は実力だけで勝負する」と言い切る人ほど、孤立していく。

この感覚を理解できない人は、永遠に「なんであの人が?」と首をかしげ続けます。
でも答えはシンプル。
技術があったり、自分なりに何かを頑張っていたとしても、顔と名前が一致していない人に声がかかることなど無いからです。

チャンスは、待つものではなく「与えたい」と思わせるもの

「実力で勝負したい」という人ほど、たいがい自分の存在を知らせる努力をしていない
報連相を怠る。イベントにも顔を出さない。SNSも更新しない。でも「私の才能を見抜いてくれる人が現れる」と信じている。──そんな奇跡は起きません。

この業界における“チャンス”とは、自然発生するものではなく、「与えたい」と思わせる結果なんです。

どこかに勤めれば、たいてい自分の代わりの業務は、他の誰でもできますよね。
それは「仕組化」といい、会社組織なら必ず目指すべき状態。即ち、あなたの代わりは誰でも務まるべき、のです。
しかしあなたは、「他の誰にも代わりが利かない自分を目指したい」──だから芸能の世界に足を踏み入れた。

であれば、あなたでなければならない理由を証明せよ!

どれだけ技術向上の努力をしても、それを伝える努力をしなければ、証明しようがないのです。
これはスキル論ではなく、心理戦です。相手の立場になって、「この人を使いたい」と思わせるように立ち回る。その戦略性が欠けている人は、どんなに歌や演技がうまくても、事実上存在していないことになります。

関係値を「狙う」ことを恥じるな

よく「計算高い人は嫌われる」と言われます。でも私は、芸能の世界でそういう人を否定する気はまったくありません。
なぜなら、計算して関係を築こうとする人ほど、相手のことを考えているからです。
何をすれば喜ばれるか? どんな話をしたら相手が笑うか? どんな現場で顔を出せば印象に残るか? それを考えて動くのは、立派な戦略です。
無計画に頑張って、何も伝わらずに終わるより、 計算してチャンスを掴む方が、よっぽど誠実です。

芸能は、運と実力と関係の掛け算。 「運」は呼び寄せるもの。 「関係値」を積み重ねて初めて、運の導線が生まれます。

ただし距離の取り方を間違えてはなりません!

関係値を築こうとすると、逆に距離を詰めすぎて失敗する人もいます。業界あるあるです。
「アピールしなきゃ」と思うあまり、メールを連投したり、相手の時間を奪うような接触をしてしまう。結果、煙たがられる。

ここで重要なのは、「親しみ」と「馴れ馴れしさ」は別物だということ。 関係値は、敬意を持った距離感の上に成り立ちます。仕事相手に可愛がられる人は、みんなこのラインがうまい。
敬語を外さないが、壁は作らない。 気を使うが、卑屈にならない。 「媚び」と「誠意」は似て非なるもの。 それを体で覚えることが、プロとしての第一歩です。

関係値にまつわる社内事例

談笑するタレントとスタッフ

関係値アリ 関係値ナシ
取引先の人に引き合わせる ×
オリジナル曲を無償提供する ×
社内コンテンツの起用に直接声をかける ×
企業案件を直接振る ×
無償でレクチャーしたり機会提供する ×
所属契約の提案する ×

「レッスン受ければチャンスがもらえる」──それは幻想

「黙々とレッスン頑張っていれば、いつかチャンスは来るはずだ」と思って、関係作りから逃げている人
それは思い込みです。 私は弊社で行っている各種レッスンを受け入れる時、入会希望者に必ず伝えていることがあります。

レッスンに来ているだけで、仕事を振ることはありません

打算的に考えて、「仕事を振ってもらえること」を期待し、レッスン受講を申し出てくる人の思惑を、頭から砕きます。

レッスンに来てるだけで仕事を振ることはない、チャンスを与えるのは、振る根拠がある人だけ

そう断言するのです。
その根拠とは、技能や実力も一因にはありますが、シンプルに言えば「チャンスを与えたいと思わせること」です。 そこに大きなウェイトを占めているのが「関係値」というわけです。

ではそれはどう構築していくのか?
報連相+貢献+共感+感謝の4軸を意識すると、関係の深度は格段に上がります。

関係値構築の例

「適切な頻度で活動報告をする」「行事やプロジェクトに参加する」「関係者のSNS発信をチェックしている」「困ったときに素直に助けを求める」「イベント当日にヘルプに回る」「レッスンや収録後に感謝を一言残す」「現場外でフォローコメントや感想を送る」

もちろん実力が伴わずに、関係値ばかり強化しようとする人にチャンスを与えることはないですが、よく知らない人にはもっとチャンスは与えません。

…というか、知らないんだから与えようがないのです。
たとえ私自身があなたのことをよく知らなくても、せめて社内レベルで顔が売れてなければ、事務所として外に売り込むことなどできません。あなたはこの界隈でよく耳にする名前なのか?

ヒント

ちなみに「ただただレッスンに来てるだけで仕事を振ることはない」と申しましたが、関係値構築の戦略的観点からは「他の人より取り組みのボリュームが多い」ということは大いにプラスに働くでしょう。
「認知される」ということに寄与する効果が大きいからです。

さあ、明日からの立ち回りを考えましょう。

うまくなるより、まず覚えられろ

下記に、先に出たBさんのエピソードを紹介します。

といっても

実際の人物が特定されないよう、複数人の実例を組み合わせたフィクションです。
「イメージのご共有」という趣旨でお読みください。

未経験のBさんがナレーターを志したのは、コロナ禍直後の2021年。様子見のためにまずはレッスン生として預かることにした。
当初は、他の受講生と同じように自信がなく、滑舌も安定していなかったが、それでも彼女には一つだけ違う点があった。
「人を巻き込む力」だ。

レッスン後、講師に「今日の読み、どこが良くなかったですか?」と必ず質問。 収録スタッフにも「音声のトーン、聴きづらくなかったですか?」と声をかける。さらに帰宅後には、弊社関係者たちのSNS投稿にコメントを残し、仲間の輪を広げていった。ラジオ番組にも参加し、自身の番組のみならず、他の番組からもゲスト出演の声が沢山かかるようになる。もちろん社内イベントにも、ほぼほぼ参加。人より何時間も前に来て、率先して準備を進める。

その接点の多さが、彼女を「思い出される存在」にした。

半年後、社外プロデューサーが新番組の仮ナレーションを探していたとき、スタッフの口から自然に出た言葉がある。「そういえば、Bさん、推薦してみませんか?」 それが転機だった。仮ナレの段階での気配り、納品スピード、フォローの一言。

「この人、気持ちがいい」と感じたクライアントが、本採用を決定。 そこから彼女への指名は雪だるま式に増えた。翌年には正式に弊社と専属契約。 収録現場での立ち居振る舞いも含め、「仕事を安心して任せられる人」として社内で定着。企画が立ち上がるたびに「Bさん、今回もお願いできる?」と名前が上がるのは、才能よりも信頼値の積み重ねだ。

教訓はシンプル。 「まず覚えられろ。」
それを実践した人だけが、生き残っていきます。

今回のまとめ
  • 芸能の世界では、才能は必要条件、信頼構築も絶対条件。両方を磨け。
  • 好かれろ。逆に嫌われてもいいが、少なくとも忘れられるな。無関心だけは許すな。

「関係値」という言葉は、令和の今、一般的にはあまり好ましくない表現かも知れません。人間関係を数値化するなんて、と嫌悪感を抱く人もいるかもしれません。

しかし、芸能の世界は人間関係で成り立っているのです。「私の代わりが利かない私になりたい」そういう価値観で自らを売り込む以上、「あなたでなければならない理由」が求められるのです。

社会通念や現代的な価値観を振りかざして、本質から逃げようとする人は、こういう世界に足を踏み入れないことです。チャンスが必要だというのなら、手段選ばず一目置かれてください。

技術で道を切り開くとしても、 それを土俵に乗れなければ、絵に描いた餅なのです。