元局アナ/式典MC/朗読活動者が「意外と通らない」理由

女性ナレーター志望者、よくある属性3選のイメージ

「原稿は読める。声の仕事も経験がある。だからナレーターもいけるはず」——そう信じてブースに入った瞬間、空気がすっと変わることがあります。

ヘッドホンの向こうでは、編集済みの映像がカットごとに切り替わり、BGMが薄く走り、テロップが静かに主張する。ここで求められるのは“上手い読み”より、企画(映像・商品・物語)の意図を声で演出できるかどうかです。私も昔、ディレクター側で「読みは完璧なのに、なぜOKが出ないんだ…」と頭を抱えた経験がありました。

今回、女性ナレーター志望者よくある属性3選として挙げさせていただくスタンスは下記です。

  1. 元局アナ
  2. ウェディング/葬儀MC
  3. 朗読活動者

いずれも声のプロ。その筋では経験じゅうぶん。しかしナレーターオーディションの現場で録音されたナレーションをプレバックすると、通用しないこと、別競技だと気付いてしまう。

今回のコラムは、そのズレの正体を、現場の具体例と一緒にほどいていきます。

本記事を読むべき人
  • 声の仕事経験があるのに、ナレーション案件で評価が伸びない人
  • これからナレーターを目指し、最短で“現場の正解”に寄せたい人

胸がざわつく競技違い:ナレーションの「設計」と元局アナの壁

元局アナウンサー

ナレーションは、企画(映像・商品・物語)の意図を声で演出する仕事です。
元局アナの武器は強力なのに、同じ武器を同じ握り方のまま持ち込むと、かえって作品を弱くしてしまう。

ここでは「正確」と「演出」の違いを、現場の評価軸で分解します。

アナは「正しく読む」/ナレーションは「正しく感じさせる」

元局アナが志望しがちな理由は明快です。
「原稿読み=即戦力」と見えやすい。発声・滑舌・息、尺感、生放送の安定感。強いですよね。
とはいえナレーションの本質は、台本の文字ではなくトンマナ(世界観)にあります。

声は主役ではなく、映像や商品を勝たせる脇役。ここで事故るのが“ニュース読みのクセ”です。
硬い、説明口調、抑揚が単調。情報は正確なのに、映像の余白を全部埋めてしまう。

ある企業VPで、工場の手元カットに合わせて「高品質を支える技術力が…」と完璧に読んだ方がいました。ディレクターの返しは冷静でした。

ナレーションディレクター

正しい。でも嘘っぽい。

求めていたのはニュースの正確さではなく、現場の息づかいに寄り添う温度だったからです。

反論として「でも企業VPは信頼感が大事でしょう?」という声もあります。もちろん大事。ただし信頼感は“硬さ”だけで作られません。

語尾を少し抜く、強調を一段下げる、視点を「説明者」から「隣にいる案内役」に変える。
その微調整が、信頼を“映像側”に乗せるコツになります。

5つの軸がズレると、上手いのに落ちる

ナレーションで褒められるのは「ミスが少ない」だけではなく、「トンマナ一致」「没入感」「邪魔しない存在感」。怒られるのは、読みの正しさではなく“作品の邪魔”になった瞬間です。

比較軸 元局アナの競技 ナレーションの競技
目的 正確に誤解なく届ける 意図通りに導く(感情・理解・世界観)
主役 情報そのもの 映像・商品・企画(声は黒子)
評価 明瞭さ、信頼、尺管理 トンマナ一致、説得力、編集耐性
表現 個を出しすぎない 必要なら個性も使う(作品に従属)
台本 基本は改変NG 文字より意図(語尾・間・温度は調整)

この表を見て、「あ、自分は情報の交通整理で勝ってきたんだ」と気づけた瞬間から、成長が早まります。

ナレーションは、声の上手さより声の設計。テンポ、距離、抜き差し、抑揚、間、語尾、そして視点。どこを立て、どこを捨てるか。そこにプロの価値が出ます。

局アナ経歴は隠したほうが良い場合も?

アナウンサーのナレーション志望者

元アナウンサーです!

箔を感じますよね。もちろんその経歴は、PR材料になり得ます。

多くの方は20代のころにキャリアを積み、引退して子育てに専念し、それが一旦落ち着いた今、40歳をこえてナレーターという道に着眼します。
しかし声は鍛えることを辞めて3年もたてば、精度はドンドン落ちていっているのです。筋トレと同じで、それは加齢とともに加速します。

あまり華々しいキャリアを掲げて自信満々で来ると、恥ずかしい思いをする可能性は高いのです。
審査員側も、プライドを傷つけないように慎重に言葉選びをしなくてはなりません。

元アナウンサーでブランクが長い方は、「今の声の精度に自信がない」と冒頭で素直に言ったほうが、実りある展開になると思います。

もどかしい丁寧さ:ウェディング/葬儀MCが「溶けられない」瞬間

式典MC

式典MCは、場を回し、空気を支え、安心感を作るプロです。敬語、現場対応、咄嗟の判断。営業力も強い。なのにナレーションでつまずくのは、能力不足ではなく“存在感の出し方”が別だから。

ここでは「場の中心」から「作品に溶ける」への切り替えを扱います。

MCは“今ここ”の中心/ナレーションは“編集後”の完成形

ウェディングや葬儀のMCは、目の前の人間関係と時間を回す仕事です。
主役は会場と参加者。声の存在感は出してOK、むしろ必要。

ところがナレーションは、編集後の完成形に最適化します。
声は溶ける、邪魔しない、切られても成立する。ここで出る個性が、過度な丁寧さと美しい間。

以前、式典MCの方が商品説明動画を読んだとき、語尾が毎回きれいに着地しすぎて、映像のカット割りに乗りませんでした 。
BGMが軽快なのに、声が「ご案内申し上げます」トーンで、テンポがふわっと落ちる。

ディレクターの指示はこう。

ナレーションディレクター

もっと雑でいいです(笑)

丁寧さは価値ですが、映像がポップなら声もポップに寄せる必要がある。台本にない“親切な一言”を足したくなるのも、MCの職業病です。ナレーションではそれが事故のもと。

足すより、設計して合わせる。ここが勝負どころになります。

失敗談:存在感が強すぎて「いい声が邪魔」になった日

これは完全に僕の失敗です。

2022年9月、都内の展示会向けVPで、式典MC経験者をキャスティングしました。
声も滑舌も完璧。現場も締まる。…はずが、完成尺で崩れた。

原因は、声が“主役”になってしまったこと。
展示会ブースでは、映像はループ再生され、視聴者は途中から見る。だからナレーションは、どこから入っても理解でき、かつ映像の視線誘導を支える黒子であるべきでした。

ところがその方の声は、場を仕切るパワーが強すぎた。
結果、映像より声が目立ち、商品が薄く見える。現場ではOKを出したのに、編集室で「これ、声が勝っちゃってるね」となり、撮り直し。痛い授業料でした。

反論として「MC経験者ならクライアント対応が上手いから有利では?」はその通り。
だからこそ、最後の詰めは“溶ける技術”です。声量を落とすだけでは足りない。
語尾を軽く預ける、間を編集点で作る、強調を映像の寄りに合わせる。
存在感を“出す”ではなく、“調整する”。これがナレーションのプロの所作です。

編集に強い声は「切られても成立」する

ナレーション現場で評価されるのは、編集耐性です。
どこで切られても意味が通る。息が邪魔にならない。語尾が次のカットに渡せる。
これができると、ディレクターは安心します。
逆に、MC的な間(拍手待ちの間、感情を受け止める間)を入れると、編集で扱いにくい。

おすすめのトレーニングは、台本を3パターンで録ること。

  1. 語尾を閉じる(です/ますで着地)
  2. 語尾を抜く(余韻を残す)
  3. 語尾を渡す(次へ運ぶ)

同じ文章でも、映像のテンポで正解が変わります。「丁寧さ」を捨てるのではなく、丁寧さを“作品のテンポに合わせて変形”させる。これができた瞬間、MC経験は強烈な武器に戻ります。

熱量がノイズになる夜:朗読活動者が越えるべき「目的最適化」

朗読活動者

朗読活動者は、情景描写と感情の立ち上げが得意です。言葉の解釈も深い。聞き手を惹きつける熱量がある。なのに商業ナレーションで苦戦しやすいのは、表現が悪いからではなく“目的の優先順位”が逆転しやすいから。

ここでは、盛る技術を引く技術へ変換します。

朗読は「自分の読み」/ナレーションは「相手の正解」に合わせる

朗読の競技は、文章を主役にして情景を立ち上げること。解釈を深め、間を作り、聞かせどころを作る。
だから“盛り”は武器です。

一方、ナレーションは企画全体(映像・ブランド・商品理解)に奉仕します。主役は企画。言葉は構成要素の一部。ここで起きるのが、朗読の盛り癖が商業ジャンルとズレる問題です。

特に事故りやすいのは、企業VP、商品説明、eラーニング。ここで求められるのは「邪魔にならない読み」。
感情が強いと、情報が入らない。芝居がノイズになる。とはいえ、朗読経験者は“匂わせ”が上手い。盛るのをやめるのではなく、盛り方を変えるんです。

「表現力がある方が有利」だけど、ジャンルで“適量”が違う

「表現力があるなら、ナレーションも強いはず」──半分正解です。実際、ドキュメンタリー、旅番組、物語系の映像では、朗読的な情感が刺さります。
問題は、すべての現場で同じ出力にしてしまうこと。

ナレーションは“表現の適量”を決める仕事でした。つまりジャンルごとに上限がある。朗読の熱量は、上限を超えた瞬間にノイズになります。
ここで役立つのが「視点」の設計です。

自分が語り手として前に出るのか、視聴者の隣で案内するのか、登場人物の背中に寄り添うのか。視点が決まると、表現の量が自然に整います。
朗読の強みは、視点を変えるだけで“色”が出ること。これは大きい。

盛り癖を「編集に強い読み」へ変換する3ステップ

朗読活動者が最短で商業ナレーションに寄せるなら、次の3ステップが効きます。

目的を一行化
この声で、視聴者に何をしてほしい?(理解/安心/購買/共感)
強調点を2つに絞る
全部を聞かせない。「ここだけ刺す」を決める
語尾で温度を調整
断定で閉じる/抜いて余韻/渡してテンポ、を使い分ける

私が見た失敗例では、朗読配信者の方が研修動画で“感情を丁寧に乗せすぎて”尺が崩れ、編集で間を切りまくった結果、言葉がバラけてしまいました。
もったいない。最初から編集点で間を作れていれば、熱量は残せたはずです。

朗読の価値は「聞かせる力」。それを“目的最適化”へ接続できた瞬間、朗読経験者は一気に化けます。

Q&A

3属性の人は、結局ナレーターに向いていないんですか?
向いています。ただし別競技の勝ち筋を一度ほどき、企画意図に合わせて“声を設計”できるかが分岐点です。
最初に狙うべき案件ジャンルはありますか?
自分の強みが活きるジャンルから。元局アナは情報系、MCはブランド紹介、朗読は情緒系。ただし“溶ける訓練”は並行必須です。
クセ直しは、ボイトレより先にやるべき?
ボイストレーニングの中でクセを治すべきです。優先は「設計」。語尾・間・強調点・視点を直すだけで結果が出やすい。必ずマンツーマンで声のセコンドをつけて。

独自集計:初回テスト収録で落ちる理由は「読み」より「設計不足」

ここで、現場の傾向を数字で押さえます。
下記は、スタジオで行う30秒テスト収録(同一台本)を、背景別に“初回OK率”で匿名集計したメモです。

取得方法
30秒の企業VP台本を同条件(同マイク/同ディレクション)で収録し、初回で編集に耐えると判断された回数を数える。
計算式
初回OK率(%)= 初回OK人数 ÷ 受験人数 × 100
属性 受験人数 初回OK人数 初回OK率
元局アナ 12 3 25.0%
式典MC 16 5 31.3%
朗読活動者 20 4 20.0%

数字だけ見ると厳しいですが、落ちた理由は「滑舌が悪い」ではありません。ほとんどが、語尾の処理、強調位置、間の置き場、視点のズレ。つまり設計。

逆に言えば、矯正ポイントが明確なので伸びしろは大きい。ここで自信を失う必要はないんです。

今回のまとめ
  • ナレーションの評価は「上手い」より「作品の声になっているか」で決まる
  • 3属性の経験は強い入口。ただし現場の正解は、目的・主役・編集に合わせて作り直す

「声の仕事経験がある=ナレーターとして通用する」ではありません。過去の実績は確かに武器です。
ただ、その武器が“ナレーター現場の正解”とは限らない。ナレーションは、企画意図への最適化──声の設計と適量の競技だからです。

元局アナは正確さを、式典MCは場の中心を、朗読活動者は自分の読みを、それぞれ磨いてきた。素晴らしい。
だからこそ次は、作品に合わせて武器の握り方を変えましょう。

上手い声から、勝たせる声へ。そこに到達したとき、あなたの過去は“足かせ”ではなく、唯一無二の色になります。

今回取り上げた3属性の方、今コラム記事を踏まえた上でナレーターオーディションにてお待ちしております。