芸能の本質を知らぬ芸能プロが語る『チャンス』の危うさ
YouTube番組の「REAL VALUE」というコンテンツをご存じでしょうか?
ビジネスの第一線で活躍し続ける堀江貴文氏、溝口勇児氏、三崎優太氏という3名の著名な経営者がホストを務める、新しい形の経営エンターテイメント番組です。
番組の特徴は、ビジネスの世界で実績を持つ経営者たちが「認める」各領域のトップ経営者のみを厳選してゲストに迎える点。登壇者はプレゼンターとして自社の企業価値とその根拠を説明し、3名のホストがその会社の「本当の価値」を評価するというユニークな構成になっています。
私はこの手の番組が好きでよく見るのですが、「REAL VALUE」のある回に登壇した某芸能関係者の主張や事業コンセプトに、少し怒りを覚えてしまいました。
話の展開としては、「事務所とタレント双方」が芸能の本質を理解しないまま、ビジネスとして芸能界に参入することの危険性を如実に示していました。
今回は、この番組で議論されたポイント、矛盾点、違和感について、考察いたします。
REAL VALUE#15のコンテンツ概要
前提として「本稿」と関連コラムでは、この芸能関係会社をTB社、代表の方をT氏と呼びます。
あなたは「誰でも芸能界に挑戦できる」「搾取のない新たなシステム」といった甘い言葉に惹かれていませんか?
2025年4月に公開されたYouTube番組「REAL VALUE#15」では、芸能界の課題解決を謳うT氏の提案に対し、「マフィア」と呼ばれる各界のプロフェッショナルたちから、事業の実現性、ビジネスモデルの矛盾、そして何より芸能界への理解不足が厳しく指摘される場面がありました。
T氏の掲げる理想とは裏腹に、タレントから月額会費を徴収するモデルこそが「本当の情弱ビジネス」と評されるなど、その実態は夢を食い物にするような構造である可能性が示唆されています。
このコラムでは、番組内で浮き彫りになったT氏のプランの矛盾点や問題点を分析し、タレントを目指す皆さんが安易な誘いに乗ることなく、自身の未来を守るために知っておくべき警鐘を鳴らしたいと考えています。
T氏の主張と、それに対するマフィアの方々の反応
私の雑感では、T氏だけでなくマフィアの問答も一部ズレてるな、というところもありますが、とりあえずそのまま書き出してみます。
T氏の主張: 芸能界にはあらゆる搾取が多く、芸能タレントの99%が芸能を本業にできていない現状を解決し、全ての人に平等なチャンスがあるべきだと考えている。
同様の話は10年前に多くの人が言っていたことであり、今更何を言っているのかという印象を抱いている。タレントからお金を徴収するビジネスモデルは脆弱であり、お金を払う側のメリットが全く見えないと指摘。
T氏の主張: これまでの芸能界では中抜き業者が多く、養成所はスキルを教えても仕事を提供しないという課題があるため、自身が設立したTB社で解決したい。
TB社のビジネスモデルも、夢を売って登録料を徴収するだけで、登録した人も忘れてしまうような「最も情弱ビジネス」ではないかと疑問を呈している。またT氏のビジネスモデルが、タレントから月額会費を徴収する点で、新たな中抜き構造ではないかという見方も示唆された。
T氏の主張: TB社は日本最大級の芸能タレントコミュニティであり、芸能キャスティングとコンサルティングを提供し、タレントの代わりに営業活動を行い案件提供する。4,000円から300万円程度の幅広い案件を扱っている。
タレントから月額会費を徴収するビジネスモデルでは、広告代理店や制作会社がTB社を利用するメリットがほとんどないと指摘し、高額な案件ばかりではないだろうと推測。実際に、提示された案件の多くはエキストラなどの低単価なものである可能性が示唆された。
T氏の主張: 芸能業界の知識や、プロフィール写真の撮り方、オーディションの受け方、スポンサーの獲得方法などをコンサルティングすることで、芸能だけで食べていけるようにしたい。
T氏自身の芸能実績が乏しい点を指摘し、そのような人物が本当に的確なコンサルティングを提供できるのか疑問を呈した。また、同様の知識はPDFなどで安価に提供できるのではないかと指摘。
T氏の主張: 専属契約の芸能事務所は倒産・廃業が増加しており、タレントコミュニティのような形態が今後伸びると考えている。
業界の構造変化の可能性は認められているが、それがTB社のビジネスモデルの正当性や成功を保証するものではないという見方が示された。
T氏の主張: タレントと会社のギャラの割合をタレント8割、会社2割にすることで、タレントが芸能だけで食べていけるようにしたい。
この割合はタレントにとって有利だが、会社の収益性の持続可能性について疑問。
T氏の主張: 誰でも芸能界に挑戦できる世界を目指している。
堀江氏は、「誰でも」という言葉に対し、T氏のプレゼンにおける自信過剰な態度や、自身の演技力への言及を批判し、矛盾を感じている。また、夢を安易に売るようなビジネスモデルに警鐘を鳴らしている。
T氏の主張: 芸能界は案件が余っている状態であり、エキストラの仕事などからステップアップしていくことで、徐々に業界で認知を広げられると考えている。
案件が余っているという点は認めつつも、エキストラの経験が必ずしもステップアップに繋がるとは限らないと指摘。また、実績として紹介された在籍タレントの事例も、年間110万円のスポンサー獲得であり、「成功事例」とするには弱いのではないかという印象を与えている。
T氏の主張: TB社のコミュニティモデルは、タレントからの月額5,500円の会費が主な収益源の一つである。
このビジネスモデルの脆弱性や、会員に充分な価値を提供できていない可能性を指摘。有料登録者のうち、実際に1万円以上稼げているのは1/10程度であるという現状が、会費に見合うリターンを提供できているのかという疑問をさらに深めている。また、3年間の契約期間と解約時の違約金の存在も、会員にとって不利な条件であり、ビジネスの誠実さを疑う声も。
T氏の主張: マネジメントではなく、本当にどんなタレントにも平等に仕事がもらえるチャンスを与えたいというのが本心である。
しかし会費を払っているにも関わらず、仕事を得られているのは一部の会員に限られている現状は、平等な機会の提供という主張と矛盾していると指摘。
これらの指摘から、マフィアの方々はT氏の主張する理想と、彼のビジネスモデルや現状の実績との間に大きなギャップや矛盾を感じていることがわかります。特に、ビジネスモデルの持続可能性、会員への提供価値、そしてT氏自身の業界での実績と発言の矛盾などが、主な違和感のポイントとなっています。
今後、数回にわたって、各議題における私の見解をコラムとして書いていきます。
おおむね、事務所側を擁護する話であり、芸能について「世間やタレント志望者自身の誤解」に切り込むテーマです。
しかしながら
一方で、表面的には「タレント側の味方に見える」TB社のスタンスにこそ、なぜ嫌悪感があるのか?
実は以前より「TB社に面接行こうと思うけど、どう思います?」とタレント志望者たちからよく相談を受けていました。そして私の回答は、結構ポジティブなものでした。
しかし番組で明らかになった実情を知った以上、黄色信号は灯したいかな、というのが今の率直な気持ちです。
私が今回、甘言を吐かず、芸能界、事務所、タレントの本質、実情を詳らかにする理由。
それは、エンタテインメントを通じて自己実現したい全ての皆さまへ誠意をもって向き合いたいから。
物事を正しく理解してはじめて、その道で活路を見いだせるのだ、と信じています。